腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 考え事や頭をスッキリさせたい時、尚史さんはコーヒーを飲む。起床、就寝、私と雑談する時も。だから私も一緒に飲むことが増えた。

 香ばしい匂いが漂い、思わず目を閉じる。コーヒーなら、ここに引っ越してくる前も、何度も飲んでいた。両親がいた頃は勿論のこと、勤めていた会社でも。
 だけどコーヒーメーカーなんて、お洒落なものを使って飲んだことはない。粉が主で、たまにドリップで飲むのがせいぜいだった。

 姉との生活では考えられない世界。コーヒーメーカーに豆を入れ、給水タンクに水を入れる。ボタンを押せば、後は待つだけ。
 なんて優雅な世界なんだろう。こういうのは、物語の世界だけだと思っていた。

「もしかしたら……壊したいのかもしれないな」
「壊したい?」

 思わず、今の生活を想像してしまった。

「芳口病院だよ」
「あっ、そっち……」
「まぁ、湊と一ノ瀬姉の関係もあるだろうけど」

 尚史さんは私の言葉を、都合の良い方へ変換してくれたようだった。私はホッとしつつ、尚史さんの言葉を待つ。