腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 尚史さんから、噂は私が襲われたことよりも、むしろ示談の話の方が大きく広まっていることを聞いた。どうやら、身内を見捨てる行為が反感を買っているらしい。

 人を救う職業の人間が、いとも簡単に切り捨てるのが許せないのか。もしくはよくあることだから、想像しやすいのかもしれない。

 想像できないことは、感情移入もし辛いからだ。

 私はそれをよく知っている。姉が周りに植え付けた、出来の悪い妹を支えて懸命に生きていく、健気な姉、という役。
 お涙頂戴話の定番だからこそ、周りは容易に姉の話を信じるのだ。誰も、姉が自分をよく見せるために、妹を悪者扱いしているなんて、思わない。

 だってお姉ちゃんは常に、悲劇のヒロイン振るのが上手いんだもの。

 だけど今回は、逆にそれが仇となったらしい。
 数日後。噂の確認も兼ねて、リハビリのために芳口病院へ行くと、私への同情と湊さんに対する非難が聞こえてきた。

「一ノ瀬さんの妹、今日もちゃんとリハビリに来ているわ」
「偉いわよね。芳口先生に、示談しないように迫られたって聞いたわよ。轢いた犯人も、ここの医者なのに……私だったら転院を申し出て、二度と関わらないようにするけどね」
「本当本当。それにわざわざ身内の恥を上塗りするようなことを、よくするわよね。これ以上、芳口病院の評判が悪くなったら……私たちも身の振り方を考えた方がいいかも」
「えぇぇ。それはまだ早いんじゃない?」
「そうかしら。遅くなったら、出づらいでしょう?」
「まぁ、そうだけど……」