腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 私たちがこそこそと話しているのと同じで、向こうもこちらに聞こえないほどの大きさで話しているようだった。
 しばらくすると、男性警察官に説得されたのか、湊さんが踵を返して去って行く。代わりに、男性警察官がこちらに近づいてきた。

「どうでしたか?」
「大丈夫だ。ちょっと言い争いになって、カッとなってしまった、と本人も反省していたみたいだし。一ノ瀬さんに、悪かったと謝ってほしいとも言われたから」
「そうでしたか」

 男性警察官は、私に向かって「まぁ、そんなわけだから」とでもいうように、苦笑して見せた。カッとなったのは私も同じだったし、直接危害を加えられたわけではない。肩を掴まれた拍子に、私がバランスを崩してしまっただけなのだ。

 けれど人の口に戸は立てられぬもので。さらに場所も、芳口病院からほど近いマンション。好青年と評判のいい若先生こと湊さんが、松葉杖をついている女性に乱暴した、とその日の内に、湾曲した噂が周囲に広がっていったのだった。