腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 私の啖呵に呆気に取られたのか、湊さんは呆然とその場に立ち尽くしている。けれど私は私で、そんな湊さんに構っている時間はなかった。ううん、構いたくない、の間違いだった。
 湊さんと話せば話すほど、姉の影がチラついてならないのだ。

 芳口病院の次期院長で、ほんわかとしているけれど、しっかり者の園子夫人の息子。院内でも好印象の若先生でありながら、裏では尚史さんをいいように使う曲者。それが芳口湊のイメージだった。
 だけどこんな簡単に、姉に操作されるなんて……いや、考えていても仕方がない。私は早々にこの場を立ち去ろうと、松葉杖を動かした。

 カツンッと地面に鳴り響く。体を反転させ、来た道を行くだけなのに、松葉杖というのは不便なもので、迂回しなければ回ることもできないのだ。さらにバランスを崩せば転んでしまう。
 だから私は、慎重に地面を見ながら、ゆっくりと方向転換した。湊さんが先回りをして、私の進行方向に立っているとも知らずに。

「待ってくれ!」
「っ! な、何をしているんですか!? そこを退いてください!」

 小回りの利かない私は、周りにいる人たちに聞こえるように叫んだ。けれど湊さんには関係なかったようだ。