腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「あぁ~ダメダメ! このままじゃ、時間を無駄にするだけだわ」

 まずは会社の近くまで行ってみようかな。通勤時の時間帯でなければ、バスで行けるんだから。そうよ。近くに行けば、誰かに会うかもしれないし、そこから退職話をそれとなくしてみるのもいいかも。

「うん! それでいこう。あわよくば、この未練たらたらな気持ちを断ち切れるかもしれないし」

 そう思っていたのに、予想外な場所で、意外な人物に出会うことになるとは、世も末である。いや、世間が狭い、ともいえよう。

「やぁ」

 マンションを出て、近くのコンビニの前を通った時だった。なぜか目の前に、昨日会ったはずの湊さんが現れたのだ。
 どうして……湊さんだって、尚史さんと同じ外科医でしょう? しかも次期院長であり、時々警察署に出向いてもいる。こんなところでバッタリ会うほど、暇人ではないことくらい、私だって分かるのに、なんでいるの?
 けれど無視することもできなかった。姉の婚約者、という意味よりも、昨日お世話になったからだった。

「こ、こんにちは……その、奇遇ですね」

 明らかに違うと分かりつつも、そんな言葉しか出てこなかった。
 だって「尚史さんに用ですか?」と聞けば、病院で会えばいいし。「お散歩ですか?」と聞けば、尚史さんに仕事を押しつけている人間を前に、それは嫌味でしかない。
 つまり、散歩をしている暇なんてないはずの人間が、目の前にいるということは……目的は私か!

 昨日とはうって変わって、臨戦態勢で向き合った。