腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 そんな失礼なことを思いながら、私は近くの窓口に事情を説明し、なんとか弦さんに会うことができた。案内してもらえるのかな、と思ったら口頭での説明に、思わず「この松葉杖が見えないのか!」と言いそうになったのは秘密である。
 まぁ、それくらい警察署の中は不親切な人たちばかりだったのだ。警察署の中なのに……。

 そもそも弦さんがいるのは、留置場なので、案内してもらわないと困ってしまう。さっきみたいに、入っちゃいけないところを彷徨う可能性もあるからだ。
 本当に警察署ってどうなっているの?

 色々と不信感はあったものの、当初の目的が達成したのだから、今は目の前のことに集中しよう。被害者が加害者である犯人と面会をすることは可能だが、弦さんが拒否すればできない。
 だからこれが、最初で最後になる可能性もあるのだ。慎重に対応しなければ。

「初めまして。一ノ瀬栞です」

 椅子に座った後、ガラスの向こう側にいる弦さんに向かって挨拶をした。案の定、ともいうべきか、弦さんは驚いた表情をしていた。この部屋に入る前に、誰が面会にやって来たのか、事前に説明しているのにも拘わらずに、だ。
 けれど仕方がない。姉から私のことを聞いていたとはいえ、顔までは見たことがなかったのだろう。事故当時は夜だったから、ハッキリと顔が見えたのかも怪しい。だから弦さんの第一声にも、驚きはしなかった。