腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「栞。一ノ瀬姉は俺が食い止めておくから、警察署の中に入るんだ。さすがにあの中で、問題は起こせないだろうからな」
「う、うん」
「……一人で手続き、できるか?」

 そっと私に顔を近づけて言う尚史さん。警察署の中には入るのは初めてだから、大手を振って「子どもじゃないんだから平気」とは言えなかった。
 しかも今の私は松葉杖での歩行。正直にいうと不安でしかなかったが、姉を足止めしておかなければ、弦さんに会うことは無理だと思った。

 私も甘え癖がついたのかな。いけない、いけない。

「大丈夫。分からなかったら、誰かに聞いてどうにか対処するよ」

 警察署の中なんだし、受付の標識とか、ウロウロしていれば、誰かしら話しかけてくれるでしょう。

 そう思いながら尚史さんと別れて、中には入ったのだが……嘘でしょう。一通り、窓口を見てみたけれど、それっぽい場所が見当たらない。ウロウロと彷徨っていても、誰も話しかけてくれない。お陰でたぶん、入っちゃいけないところに足を踏み入れたような気がして、引き返した。
 けれど誰も止めようとしないのだから、意外と警察署というのは不用心なのかもしれない。