腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 あのまま偽装恋人のままにだってできたはずだ。尚史さんの性格なら、そう割り切ったっておかしくなかったのだ。

「罪悪感があった?」
「……なかった、とは言い辛いな。だが、栞のことを調べていく内に、こいつも俺と同じなんじゃないか、とは思っていたんだ。一ノ瀬姉は上昇志向の人間だから、行動が読みやすい。病院内で聞く栞の話も、あまりいいものではなかったことも、理由の一つだ」
「それは……同情ってこと?」
「違う。同情だったら、栞に甘えていないさ。たぶん、俺も疲れていたんだよ。誰かに肩を預けたくなるほどにな」

 そんな弱音を吐いているけれど、尚史さんの表情は、とても優しく穏やかだった。私の頬を撫でる手も優しくて、思わず目を瞑った。

「……来週、弦に会いに行けるよう、調整してみる。仕事復帰する前の方が、栞も都合をつけやすいからな」
「無理しないでね。お姉ちゃんに勘づかれる恐れもあるんだから」
「分かっている。俺も、栞を奪われるわけにはいかないからな。慎重に動くつもりだ」

 けれどどんなに尚史さんが慎重に動いても、搾取する者の嗅覚は鋭い。尚史さんが侮っていたとは思いたくないけれど、私は運悪く、再び姉と対峙することとなった。