腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

「あの時、迷わずに栞を選んで良かったと思っている」
「私も、尚史さんの誘いを受けていなかったら、またお姉ちゃんの評価を上げる材料にされていたよ」
「……今更だが、怒っていないのか?」
「何を?」
「弦を唆して、栞を襲わせたこと」

 改めて聞かれると、よく分からなかった。それだけ、尚史さんとの出会いが、心地よかったからだろう。
 姉から離れる術を見つけられないまま、ただ流されていただけの人生。利用されるのが嫌なら、もがいてもがいて、必死に逃げる術を探ればいいのに、現状に甘んじていた。
 おそらく、尚史さんが現れなかったら、私はずっと姉に搾取される人生を送っていただろう。

「……結果論でしかないけど、尚史さんと出会えたからね。怒っていないよ」
「俺が言うのもおかしいが、下手したら死んでいたかもしれないのにか?」
「だから結果論って言ったじゃない。幸いにも、全身打撲と左足の骨折だけだったから、許せる話なんだよ」
「そうだな。左足の方も、あと一カ月リハビリすれば治る。そういう点は、弦も医者だったことだな。頭に血が上っていても、命を奪おうとまでは考えていなかったってことだ」
「尚史さんもだよ。お姉ちゃんが、さらに湊さんたちの関係を複雑にしたのに、その妹である私を利用し切れなかったんだから」