腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

 マンションに着いてから、一気に空気が重くなった。車の中も微妙に重かったけれど、カフェの話をしていたり、窓の外の風景を話題にしたりしていたから、そこまで気にならなかった。

 けれど扉をバタンと閉めた瞬間、空気が音の形になって、部屋の中を満たした。せめて分散してくれれば、と思ったが、残念なことに、私と尚史さんの周りに留まったままだった。

 それに耐えられなかったのは、尚史さんも同じだったらしい。私が靴を脱いでいる間、松葉杖を片付けられ、いきなり横抱きにされてしまった。
 家の中でも松葉杖なしで歩く練習をしているため、そんなことをしなくてもいいのにと思っても、尚史さんの硬い表情を見ると、口に出すことはできなかった。いや、そんなことを言う前にソファーに座らされてしまったのだ。

「転院、断ったんだってな」

 尚史さんは向かい側のソファーにすると、すぐに切り出してきた。
 声のトーンから、怒っている感じには見えない。けれど表情は硬いまま。なんと答えればいいのか分からないのなら、私が取るべき行動はただ一つ。