女神イリオネスと、九ヶ月の飴玉

 ヒュピヒュピの不気味さとはまた違う、本能的な恐怖。
 イリオネスは息を飲み、その場に釘付けになりました。

(あれは……十二神。月を司る女神、アルテロス様……!)

 アルテロスは再びサングラスをかけ直すと、一言も発することなく、轟音を響かせながら天空の彼方へと消えていきました。

 イリオネスは恐怖に似た緊張が解けると、背中に背負うバイオリンを『ゴット』と鳴らし、雲の地面に手を着いていました。

(恐ろしいまでの気迫。あれがあのアフディーと実の姉妹とは思えません)

 項垂れるイリオネス。しかしそこへ、今度は冬の終わりを告げ、春の訪れを知らせるような、心地よいハープの音色が流れてきました。

 ポロロン、ポロロン。

 再び天を仰ぐと、そこには優雅な馬車で太陽を曳かせ、黄金の竪琴(リラ)を奏でる男神の姿がありました。太陽神アプロンです。

 彼は指先で弦を弾くと、そのまま美しく指を宙に泳がせ、自らの奏でる音色とその振る舞いに、うっとりと酔いしれています。

 見た目だけは非の打ち所がない美形ですが、隠しようのない重度のナルシストでした。

(ああっ……今度は太陽神、アプロン様まで……)