女神イリオネスと、九ヶ月の飴玉

 豪華な赤いベルベットのソファに身を沈め、気だるげに頬杖をつく一人の男。

「やあ、どこから来たんだい? お嬢ちゃん」

 声をかけられたイリオネスは、その場に釘付けになりました。

 鮮やかな赤の『ペプロス』に、同色のターバン。陶器のように青白い肌に、空の色を映した瞳。

 彼が携える杖の先には、すべてを見透かすような巨大な目玉が据えられ、彼の口元には、眠りを誘うケシの花が一輪、妖しく、くわえられていました。

 イリオネスは震える手で、必死に手紙を差し出しました。

「こっ、これは……ヘローラからの、てっ、手紙ですっ!」

 あまりの震えに、自分でも手紙が一点五倍ほどの大きさに膨れ上がったかのような、錯覚に陥るほどでした。

 ヒュピヒュピはうつろな瞳で手紙を一瞥すると、沈黙したまま、じっとイリオネスに視線を合わせました。

 その読めない眼差しに耐えきれず、彼女は逃げるように背を向けます。

「たっ、確かに、お渡ししましたから。わっ、私はこれにて失礼を……っ」

「ちょっと待ちなさい、お嬢ちゃん。……その背中のバイオリン、君は音楽を嗜むのかい?」

 背後から突き刺さるような声。イリオネスは振り返ることもできず、固まったまま答えました。