夜勤を終えて外へ出ると、空が白み始めていた。
始発前の街は静かだ。 コンビニの明かりだけが妙に眩しく見える。
紬は眠気で重くなった身体を引きずるように歩いた。
途中、自販機の前で立ち止まる。 温かいカフェオレを買おうとして、値段を見てやめた。
百五十円。
今の紬には、その百五十円すら惜しい。
「……何やってるんだろ」
自嘲気味に笑う。
こんな生活、いつまで続くんだろう。
アパートへ戻り、狭いユニットバスでシャワーを浴びる。
鏡の前に立つと、目の下の隈が昨日より濃くなっていた。 「……寝なきゃ」
呟きながらベッドへ倒れ込む。
薄い布団。
古いエアコン。
今の紬には、この小さなワンルームが全てだった。
スマホが震えたのは、昼前だった。
ぼんやりした頭のまま画面を見る。
覚えのない番号だ。一体誰だろうかと思いながら、通話ボタンを押した。
「はい……朝比奈です」
『朝比奈紬さんでしょうか?』
女性の声だった。
『わたくし、ハウスサポートリンクという家事代行会社の者です』
「……はい?」
『以前登録いただいた経歴を拝見しまして。住み込みのお仕事に興味はありませんか?』
住み込み。
紬はゆっくり身体を起こした。
『個人宅での家事全般になります。条件がかなり良くて……』 「条件、ですか?」
『月給四十五万。家賃食費込みです』
耳を疑った。
四十五万。
紬の今までの生活では、ほとんど見たことのない数字だった。 怪しい。 普通に考えて、怪しすぎる。
でも、断れるほど今の紬に余裕はなかった。
*
