あなたの小説を売ってください


少しだけ肌寒さを感じる昼休みの中庭。

購買で買ったパンを素早く食べて、私は手元のスマホの電源を入れた。

映った画面上には文字がずらりと並んでいる。


「えっと…どこまで書いたっけ…」


確か、物語の終盤。

主人公が遠距離恋愛になった恋人に別れを告げるシーンの途中だったっけ。

私の指先が忙しなく液晶画面を滑る。


麻希(まき)ってば集中力ヤバ…、その作品もうすぐ完成なんでしょ?」


隣でお弁当を食べていた乙葉(おとは)がふっくらと巻かれた玉子焼きを箸でつまみ上げた。


「メロンパン一個だけじゃ足りないでしょ?これあげるから食べて力つけなよ未来の先生」


「ありがとう、乙葉…でも未来の先生ってのはやめて。まだまだ素人の趣味程度なんだから」


開いた私の口に玉子焼きが放り込まれる。

甘かった口内がしょっぱい卵で引き締まったような気がした。


「物語一つ完成させるだけで十分“先生”って呼べるでしょ。アタシなんて中途半端なやつばっかで久しく完結させてないし…」


「もったいないよ、それ。乙葉の小説はアイデアが良いんだから…完成させてたくさんの人に見てもらわなきゃ」


「えへへ、麻希に褒められると一番嬉しい~」


「ゆっくりでいいから完成させてほしいな。乙葉先生の小説を楽しみにしてるファンがここに一人いるんだから」


私と乙葉は小説友達だ。

一年前、この高校に入学して話すようになった。

きっかけはもちろん、小説だ。

私がハマってよく呼んでいた小説を見た乙葉が声をかけてくれて、それから仲良くなった。