あなたの小説を売ってください


その夜、私は自室のベッドの上に横たわり一万円札を天井の明かりにすかしていた。

偽札かどうか見分ける方法。

真ん中の白い部分にお札の肖像画がくっきりと浮かんでいれば…それは本物のお金。


「…はぁ…」


お札を見つめながら吐息をもらす。

結果的に、ツムグさんから貰ったお金は本物であると分かった。

本物の一万円…いや、十万円が今私の手元にあるんだ。


「十万円って事は、短編小説一作で五万円って事なのかな…」


なんでそんな大金を素人の小説に渡す事ができるんだろう。

そんな事をしてツムグさんに…小説買取人にメリットはあるの?

目的は…何?

家に帰ってからずっと、そればかり考えている。


「なんにせよ、もう利用する事はないよね」


小説を考えて書くという労力はあるけど、比較的簡単に大金を貰えるこのやり取りはやっぱり異質だ。

深く関わらない方がいい。

そうに決まっている。

だけど…。


「乙葉は、どう思ってるかな…?」


お金の入った封筒を熱心に見つめていた乙葉の嬉しそうな顔が忘れられない。

家に帰るまでずっと、帰りの電車の中でも上の空だった彼女は小説買取人をどう思っただろう。


「明日、学校でちゃんと話さなきゃ…」


小説買取人は、もう利用しない。

私はそう心に決めて一万円札を封筒にしまった。



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