あなたの小説を売ってください


そして視線を落としパラパラとページをめくっていく。

一冊が終わり、また一冊。

素早くめくられていくページを真剣な眼差しで見つめるツムグさんを前に、私達は背筋をピンと伸ばしてベンチに座っていた。

四冊分の内容を確認したのか、ツムグさんが茶封筒にリングノートを戻した。


「短編小説が四作品ですね、ありがとうございます」


…今の一瞬の行為で四冊全てが短編だと分かったんだろうか。

そう言ってツムグさんが茶封筒をカバンにしまう。

それと入れ替わるように彼の手に白い縦長の封筒が二つ見える。

ツムグさんはそれを私と乙葉に差し出した。


「こちらが今回の代金となります。執筆お疲れ様でした」


乙葉が封筒を受け取り、私も頭を下げながら白い封筒を手にした。

ツムグさんはずっと笑顔を保っている。

それが少し不気味にも感じて、私はぎこちなく目を逸らした。


「それでは、またお会いできるのを楽しみにしております」


会釈して遠ざかるツムグさんの背中をぼおっと見つめる。

スマホで時間を確認すると、待ち合わせた時間から10分も経っていなかった。

ただ小説を渡して、封筒をもらって…少し話しただけ。

たったそれだけで終わってしまった。

緊張を解くように小さく息を吐く。


「なんかあっという間に進んで…拍子抜けしちゃったね、乙葉___」


隣を見ると、乙葉が封筒の中身を見て口をぽかんと開けていた。

ツムグさんから貰った、白い封筒。

気のせいだろうか。

少し手が震えているように見える。