あなたの小説を売ってください


そこには一人の男の子。

清潔感の漂うサラサラとした黒髪。

品の良い服装と佇まいをした彼は私達とそんなに変わらない歳に見える。

穏やかに細められた瞳が私と乙葉を交互に見た。


「初めまして、ツムグと申します。…お二人はペンネーム“まき。”さんと“OTOHA”さんで間違いないでしょうか?」


「え…あ…」


聞こえてきた柔らかな声色に戸惑う。

打ち込んだペンネームを呼ばれた…という事は、この人が小説買取人なの…?


「は、はい、そうです」


身じろぎすらできずに男の子…ツムグさんを見つめていた私の代わりに乙葉が応じる。

その表情は固く、彼女も緊張しているようだった。

そんな私達を見てツムグさんはにこりと微笑み、手を差し伸べた。


「え?…えっと…」


意味が分からず、こちらに向けられた手のひらに自分の手を置く。

まるで“お手”をしている犬のようになった私。

何、これ…何の時間?

…握手?

私も、そして乙葉も揃って重なった手と手を見つめていると、ツムグさんがクスクスと笑い出した。


「ふふ、すみません。こちらの言葉が足りませんでしたね…ご持参していただいた小説を拝見したかったのですが」


「あっ…ご、ごめんなさい…!」


慌てて手を引っこめ、持っていた茶封筒を彼に渡した。

なんて勘違いしちゃったんだろう…顔が熱い。

ツムグさんは乙葉からも茶封筒を受け取り、中に入っている四冊のリングノートを取り出した。