あなたの小説を売ってください


一ヶ月後。

私と乙葉の姿は隣町の駅にあった。


「最寄り駅を決める時に隣町の駅を選んだのは正解だったかもね…これなら知り合いに見られる事もないでしょ」


乙葉がパチリとウィンクをする。

時刻は午前9時50分。

火曜日である今日は、本来なら学校に行っていないといけないんだけど私達はサボってしまった。

授業ではなく小説買取人を取ったなんて誰にも言えない。

制服を着たまま隣町まで電車に揺られ、公衆トイレで持ってきていた私服に着替えてきたから不振に思われる事も少ないと思う。


「麻希、ちゃんと持ってきたよね?」


「うん、大丈夫だよ」


目と目を合わせて頷きあった私達。

その手には大きな茶封筒があった。

中身はどちらも小説が書かれたリングノート。

一ヶ月の締め切りで私達が書きあげたのは二作ずつ…合計四作の短編小説だった。

ジャンルは私が恋愛小説。

乙葉はホラー小説。

それぞれの得意としているジャンルだったからだろうか。

特に苦もなく完結できたと思う。

なるべく人通りの多い駅の真ん中で、設置されたベンチに並んで座る。

近くには駅員さんもいるし、万が一の時も助けを求めやすいだろう。


「…もう少しだね、時間」


乙葉がスマホを見ながら呟いた。

刻一刻と近づく小説買取人との待ち合わせの時間。

駅を行き交う人達の足音と会話が辺りを満たしている。

その中で、こちらへと近づく靴音が聞こえた。

誰かが目の前に立つ。

私は反射的に顔を上げた。