ふつれ、

 何かある度「死にたい」と思っていた。


 自分は普通だ。
 普通の人間。
 もしくはそれ以下。
 才能も何か秀でた特技もない。



「あなたの長所は?」そんな文面にいつも困る。
 A.優しいところ?気配り?協調性がある?
 そんなの今この場で考えた当てつけに過ぎないだろ。

 
 謙遜でもなくてホントに何もない。


「何もない人なんていないんだよ。」って誰かが言うんだよね。


 あなたが羨ましかった。
 イラストを可愛く描けて、数学が得意で家族の仲が良くて。


 あなたになりたいとすら思ってた。



 …
 ……
 ………

 分かってる。

 全部

 全部

 全部、ないものねだり。


 それでも、自分の完璧な理想がどっか遠いところに存在してるって信じてる。




 高校1年の春。

 入学したばかりで、クラスに馴染めなかった。
 不安ばかりで帰宅後、毎日泣いてた。

 そんな時、同じクラスの子からの紹介で出会った女の子。


 始めは、大人しい子っていうイメージが強かった。
 だから毎日、自分から率先して話しかけまくった。


 気づいたら仲良くなってた。


 今では、しょっちゅう電話で無駄話する仲になった。


 優しくて、優しくて、話を聞いてく
れて、一緒にいると楽しくて。

 毎日を一緒に過ごしていく度、あなたの良いところが見つかっていって。
 

 あなたが困っていたら、何か力になりたくて不器用ながらも頑張った。 



もうそれは、
   「親友」なんだと思う。 


 たった2文字の言葉なのに。
 その言葉を言ったら全部終わってしまいそうで怖くて、言えなかった。


 だから、勝手にイマジナリーフレンドって呼ぶことにした。(笑)


 そんな自分をあなたは笑って許してくれた。


 
 1人じゃ怖い。
 でも2人なら怖くなんかなくて、何でもできそうな気がする。

 きっとそれは、自分だけじゃないはず。


















 あなたを巻きこんだ。


 ただ、「1人が怖い」ってだけで。

 1人じゃ何もできない意気地なしの自分のせいで。


 迷惑なんて、最初からかけっぱなしだ。


 あの時、あなたが拒んでくれればよかったのに…。

 拒まないって知ってるから。
 あなたの優しさにつけ込んだ。
 ホントにずる賢い。

 




………………

 
 高校2年の夏休みが入ってすぐの日。
 
 ぷつんと何かが切れた気がした。


 いつも通りに過ごしているはずなのに、「何をやっても駄目」って思い始めた。


「全部、どうでもよくなった。」
 
 勉強も
 とにかくぜんぶ。



 自分が過去にしたひどいことが永遠に頭に浮かんで消えてくれない。

「今の自分と過去の自分は違う。」
そう断言できるのだろうか。


 (すい)という自分が大嫌いで、存在自体消えてほしかった。
 

 とにかく消えたくて


 どこか遠くに行きたくて、
 遠くの誰も知らない場所に行きたくて。



 あなたに電話した。
 出てくれるかな…。


 そんな考えは杞憂に過ぎなくて。


 4コールあたりで、聞き慣れた優しい声が聞こえてきた。


「もしもし〜?」

 
「…あのさ、今からどっか行かない?」


「ん?遊びにってこと?」


「ううん。……旅。」

 
「いいよ〜。
 じゃあ、睡の家の近くまで行く      
 ね。」


「まっ……切られた。」


 待って、と言おうとしたのにティロン♪と音が鳴る。


 
「ふはッ(笑)早すぎだろ。」

 
 ノリが軽いと言っていいのか…
 とにかく、そんないつものあなたの調子に救われた自分がいる。




 30分後。

 
 着いたと連絡が来たので外へ出た。


 自分にしか聞こえない声で
「行ってきます。」と言って。


 家族に行き先なんて言う必要はない。
 言ってしまえば意味がなくなってしまう。

 
 こんな私を世間は自分達の主観で罵ってくるんだろうか。


 好きにすればいい。
 
 
 
 久しぶりに出た外は、とにかく明るかった。 


 履き慣れた厚底の靴に包まれながら、砂利道を踏みしめる。



 背中にリュックを背負って。

 着替え、あるだけのお金、お菓子、携帯。


 詰め込めるだけ詰め込んできた。

 


 少し歩いた先の曲がり角の駐車場に彼女らしき人影が見えた。


 それだけで、自然と口角が上がる。


「す〜い!遅いよ〜!」

 両腕を宙に高く上げて、ぶんぶん振り回していた。

 元気いっぱいすぎる…(笑)


「ごめん。遅れたお詫びと言ったらなんだけど手出して(ニヤッ)」


 ついでに目も瞑ってと言うと、素直にきゅっと瞑ってくれた。


 彼女の手の平に、さっき買ったばっかりの缶のジュースをピトッとさせる。


「ウヴォッッ?冷たっ。」

 バッと手を引っ込んでしまった。



「ッ…アハハッ。今の何?
なんかの鳴き声が聞こえたんだけど?(笑)」


「…」

 からかったつもりがムスッとしてしまった。


「はい。じゃあお詫びにお菓子もつけましょう!これで仲直りでいいかね?」


 彼女が好きなお菓子を見せつけながらいうと、一気に顔がニッコニコに変わった。


「仕方ないから、今回は許そう〜(笑)」
 と上機嫌な声色で、お菓子を頬張りながら言われる。


 説得力ないな、と言うともっと拗れたことになりかねないから我慢した。


 一応、駐車場だからかアスファルトで舗装され、年中開放されてないトイレなんかもついてる。


 駐車場といっても、数ヶ月前に潰れたらしい店のものだから、止まってる車は1台もない。



 いても、不良とか言われるだけ。


  
 ここ(田舎)が嫌い。
 空気が美味しい、けど他は?
 ここに住んでる人達が嫌い。 
 すぐ、格好の噂の的にされるから。
 
 居心地が悪い。

 
 全部、水に沈んで何千年か後に保存されてる村とかで紹介されればいい。


 そんなことを考える私は、罰当たりなんだろうな。



「ごちそうさまぁ〜。」
 明るい声が聞こえ、ハッとする。


「それじゃあ、行こうか。」
 どこに?
 行き場所なんて決まってない。


 ただ、遠い何処かに行くだけ。

 それだけのはずなのに、何故か不安になってくる。 


 きゅっ。


 左手を握られた。

 柔らかくて、少し暖かくて、
 1人じゃない。
 だから、もう不安なんてどっかにいった。

 


 今は、午前11時を過ぎた頃。

 歩き続けて、1時間ほど。
 

 辺り1面は田んぼ道で木陰すらなく、日差しを強く感じる。

 2人とも、帽子を被ってきてよかった。

 
 半歩後ろを歩く彩火(あやか)は、もうデロデロに干からびていた。


「も〜ぅ、無理。喉乾いたぁ。」


「ほら、水。」

 リュックから常温のペットボトルの水を取り出し、渡す。



「ぬるっ。冷たいのがいい〜!」


「それは、分かるけど…。ここらへんに自販機なんてあるわけ…あった!」


 田んぼ道を抜けて数軒立ち並ぶ住宅の前に自販機が設置してあった。


 もう夏なのに、おでんが販売されてて衝撃を受けた。



 ポチ…


 ガチャンッ



 彩火がジュースがいい!って言ってきたがここは無難な麦茶にさせた。

 
 自販機の裏に小道みたいなのを見つけた。
 2人でわくわくしながら探索しに向かう。

 

 一歩進むごとに、全身に受ける風が冷たくなっていく。

 水のせせらぎの音も近づいてくる。




 抜けた先に、小川が広がっていた。


 ゆったりとしたした流れで、深いところで足のすねが浸かるぐらい。

 水草が川下に広がり、時々、小さな魚が見え隠れする。



 小川の側には、背の高い杉の木がうっそうと生えている。


「すっごく、綺麗だね〜。
せっかくだし、お昼ここで食べない?」


「うん!私もそう思ってた(笑)」

 あそこに座ろー!ってはしゃぎながら、私の手首をひいて案内してくれた。




 そこには、既に大きめのハンカチが敷かれてあった。

 服が汚れないようにしてくれたんだ……

 こういう気遣いが、すごく嬉しい。


「ありがとね。」
 そう言うと、ニコッて笑うから思いきり彩火の頭をわしゃわしゃした。
 
 我慢できなかったから仕方ない(笑)

 
 
 髪がぁー…。と言いつつも満更でもなさそうなので放っておく(笑)。

 
 
 リュックから菓子パンや惣菜パンを取り出した。

 本当は、お弁当を持ってきたかったけど暑いのにこして、パンにした。



 私は、メロンパン。
 彩火は、焼きそばパンを選んだ。


 2人並んで座り、足を小川に浸かりながら、パンを食べる。



 時たま、足先をかすめてく水草がくすぐったい。 
 揺れる水面が反射してギラギラと眩しかった。

 

「睡!
メロンパン、一口ちょーだいっ?」


「えぇー。じゃあ私にも一口ちょーだい?」


「もぐもぐ。ごっくん
 ざんねーん。
 もう、食べたからないでーす!」


「うぅー。そんなんずるいじゃんか!」



「「………」」 


「「アハハッッ」」
 
 沈黙を2人の笑い声がかき消す。


「彩火の食い意地がすごくて 笑笑」


「そんなことないからぁ~!」





 お腹を満たして、少し眠たくなってきた。


 小川から少し離れた杉の木に寄りかかって、休憩することにした。



 彩火は、私とは正反対で小川で水遊びを楽しんでいる。
 魚を捕るって意気込んでるらしい(笑)





……………


「ん〜〜?」

 まだ眠くて重い瞼を手の甲で擦る。


「あっ、起きた?
ぐっすり、ねてたねぇー。もう少し            
寝る?」


 隣には、彩火が座っていた。

 

 パサッ


 身体を起こすと、彩火の淡い桃色のジャンバーが肩から落ちた。 


 どうやら、風邪を引かないように、掛けてくれたらしい。
 水遊びしてた彩火の方が絶対、寒いのに…。


「上着、掛けてくれてありがとね。
 彩火は寒くない?大丈夫?」


「大丈夫だよ〜。さっきまで動いてたから、体ポッカポカなんだよね〜。」




 空を見上げると、さっきまでの光景とあまり変わっていなかった。


 左手首の黒い腕時計を見る。

 午後2時過ぎを指していた。

 正直、ここが居心地が良くて移動するか悩む。


「じゃーぁ、そろそろ行こ?」
 彩火が立ち上がりながら言う。


「え?…行くの?」

 彩火なら迷わずここにいることを選ぶと思ってた。



「睡は、遠くに行きたいんでしょ?」

「……。」


 そうだった。

 楽しかった余韻がさぁっと消え、一気に現実に引き戻された。


 





 
 小川の側の杉の木の森をぬけることにした。
 この先、何があるのか知らない。


 この地域に春頃、引っ越してきたばっかりだから。
 外に出るのがなんとなく嫌で、家に引きこもってきた。


 森の中は、木漏れ日が差し込んで地面に葉の影を映し出していた。

 森の独特な香りが鼻をくすぐる。



「そういえば、彩火は親になんて言っ
て外出してきたの?」


「何にも言ってないよ〜。」
 
 彩火は、頭上から降りそぞく木漏れ日を手の平で隠しながら言った。


「「……。」」


「「…………。」」



「…ッ……。ハ…ッ……。」

 まだ、間に合うから。

 だから、「帰りな」って。
 
 言えばいいのに、声が出ない。

 口がハクハク動いて、呼吸音が漏れるだけ。

 
 いまさら。
  
 ホントにいまさら。
 
 自分がしてることの重さを知った。


 
「泣かないでよ、睡。」
 彩火の指先が私の目元を優しく拭っていく。


「彩火を巻き込むってこと。
 ちゃんとわかってたはずなのに…
 上辺だけの覚悟だったんだよ…。」
 
 
 それもこれも全部

 1人が怖いから。


「だから……」
 

「睡!」
 突然、下を向いてた顔を両手でグイッと持ち上げられた。
 
 ビクッとして、目を合わせられなかった。


「あたしも全部、捨ててきた。
 これは、私の意思なの。
 だから睡は、何にも悪くない。
 あたしも1人が怖い、
 だからここにいるの。
 睡と一緒だから。睡がいるか 
 ら。」

 だから、連れ出してくれてありがとうって耳元で囁かれた気がした。

 
「ずっと一緒?」

 
「うん!ずっと一緒だよ〜!」

 いつもの間延びした話し方で返され、思わずギュッと彩火に抱きつく。 

 優しく抱き返してくれた。


 


……………

 しばらく歩き続け、やっと森をぬけた。
 どっかの市道に出ると思ってたが
 現実は、獣道に近かった。


 といっても、蜘蛛の巣が張り巡らされているが,手すりはきちんとある。


 もしかしたら、山道のルートの一部かもしれない。


 緩やかな傾斜をひたすら登っていく。
 時折、お互いの背中を後ろから押してなんとか進んで行く。




 青かった空が灰色の雲に覆われてしまった。
 
 少し、歩くスピードを上げるも間に合わなかった。

 
 雨がパラパラと降ってきた。 
 幸い、すぐ止みそうだった。
 

 隣りにいる彩火の顔をみると、疲労が滲んでしんどそうだった。
  


 近くにあった一本の針葉樹の下で雨宿りすることにした。


 疲れて、呼吸が乱れてる彩火をどうにか元気づけたくて


「お疲れの彩火には、これ!」

 魚肉ソーセージを渡した。



「ぶはっ(笑)
 なんで、魚肉なのさ?こうゆうと
 きは普通、甘い物でしょ(笑)」


 いい感じに吹き出してくれて良かった。(笑)

 魚肉ソーセージは、2人で半分個して食べた。

 久しぶりに食うと、美味い。
           (by彩火)


「ねぇねぇ〜!上見て!」
 と言いながら、袖口をグイグイ引っ張らる。

 顔を上に向ける。

 さっきまでの曇り空が嘘だったかのように青く澄み渡り、虹が出ていた。


 彩火は、ニッコニコの顔で虹をみている。
 

 「消えてほしくないなぁ。」


「じゃーぁ、記念に写真、撮ろ?」

 グイッと肩を寄せられ、自撮り?みたいな感じで撮られた。

 写真写りが悪いから、確認しようと、彩火の携帯をのぞき込もう
ダメって見せてくれなかった。
 
 半眼だったり?……。
 

 いつの間にか、虹は消えてしまった。 


 山頂?というか分からないが、登れるとこまで登った。

 そこには1面、草原が広がっていた。

 

 もう午後5時を過ぎていた。
 

空はまだ明るく、日差しも強い。
オレンジのライトが照らされてるようで眩しい。

 草原の真ん中らへんに、木製の机とベンチがあり、屋根がついていた。


 そこで休むことにした。

 
「少し早めの夜ご飯にしよっか?」


「お腹、めっちゃ空いたぁ~。」
 テーブルに残りの菓子パンと飲み物を並べた。



「何食べる?せーので決めよ?」


「「せーの、これ!」」
 
 同じく、アップルパイを選んだ。


「彩火、頑張ったから食べな。」
 

「えぇー。じゃあ、半分個しよー。」

 なんか、今日何回も半分個してるような気がする(笑)


 アップルパイはりんごがとろっとしてて、パイ生地がサクサクとして美味しかった。


 おやつにグミを食べた。


 そんなこんなで
 今は午後7時。

 日が暮れて、辺りの輪郭しか分からなくなってきた。

 
「睡は、夏休みの課題終わらせた?」


「夏休みが始まって、まだ5日ぐらい 
だよ?」


「そんな、彩火は?」


「見たくもないから、封印しとい 
たー!(笑)」


「封印って(笑)一生、やる気ないじゃん…」


 他愛もない話をしている時ふと、気づいた。


「ねぇ、彩火。空見て!」


「え?……。」

 彩火が空を見上げ、ぽかんと固まってしまった。


 クスクス(笑)
 
「ねっ?すごいでしょ?」



 満点の星空。
 そうとしか言いようがない。


 ハッとした彩火がバッと勢いよくこちらを向く。


 ピョンッとベンチから降りた彩火にグイッと手をひかれ、小走りでついてく。

 

 バサッ
 
 彩火がジャンバーを脱ぎ、広げて地面に敷いた。

「ほら!睡はここに寝そべってー!」


「彩火は?私の上着、敷きな?」
 と言ったが、あたしは地べたで大丈夫!って断られた…。

 …。申し訳ない。

「ほら〜!気にしないで!」
 
 2人で地面の上に仰向けで寝転がる。
 肩がぶつかる程の距離で。


 視界がさっきより段違いに広くて。 


 こうゆうとき、視力Aが羨ましい。
 心底…。
 




………………
 

 ッ…スゥ~〜
 はぁーー。


 やっと、息を吸えた気がする。 
 毎日、息が詰まって思うようにできなくて苦しかった。


 私達は、家族も学校もとにかく
全部、捨ててきた。

 それでもきっとまだ何かに縛られ続けてる。


 風の音、葉が擦れる音、呼吸音が
この世界に私達2人きりだって錯覚させる。


 深くて暗いのに、どこまでも心地良い。

 
 右肩に触れる体温が私を安心させる。


 今なら、言える。
 今だから、言わなきゃダメだ。

「ねぇ、彩火。」


「何〜?どしたー?」


「彩火、大好き。
 こんな自分と「親友」になってくれて、ありがとう。
 ……ずっと、一緒にいて…。」


「ホントに、何〜?いきなりだなぁ(笑)
……睡が行くとこ、全部ついてくから。」
 (睡が私の居場所なんだよ。)

 

お互い目を合わせて、くすくす笑う。




……………

 
 今いるここがどこか分からない。
 分かりたいと思わない。


 私の居場所は、彩火の側。
 彩火の居場所は、私の側。

 
 1人が怖い。
 1人じゃ怖い。
 
 でも「2人なら何でもできそうで」
 
 「あなたの側だから。」
 

 これから先の未来に不安なんてない。