君と終わった街で

仕事中なのに。

文姫はスマホを見つめたまま、少しだけ落ち着かなくなる。

重かっただろうか。

急だったかもしれない。

そう思った時。

すぐに既読がついた。

『ならよかった』

短い返事だった。

でも、その言葉が妙に優しく感じる。

文姫は小さく目を伏せた。

洸太は昔から、変に踏み込んでこない時がある。

高校の頃は、それが少し不満だった。

もっと自分の気持ちをぶつけてくる人だと思っていたから。

でも今は、その距離感が心地いい。

『なんか不思議』

文姫は、もう一度打ち込む。

『十年会ってなかったのに、全然そんな感じしない』

既読。

少し間が空く。

それから。

『文姫が文姫だからじゃない』

その返事を見て、文姫は少し笑う。

そういうところだ、と思う。

昔から洸太は、時々こういうことをさらっと言う。

狙ってる感じじゃなく。

本当に思ったことを、そのまま口にする。

だから困る。

『高校の時より話しやすいけどな』

続けてメッセージが届く。

『今は変に気使わなくていいし』

文姫の指が止まる。

高校の頃。

洸太は、いつもどこか必死だった。

自分の言葉ひとつで浮かれて。

落ち込んで。

だから文姫も、無意識に気を遣っていたのかもしれない。

でも今は違う。

肩の力を抜いて話せる。

だから安心する。

……なのに。

文姫は、少しだけ寂しい。

昔みたいに、自分だけを見ていない洸太に。

そんなことを思ってしまう自分が、嫌だった。

『文姫?』

返信が止まったからか、洸太からメッセージが来る。

文姫は慌てて画面を見直した。

『ごめん仕事してた』

嘘だった。

本当は、考えていた。

どうして自分は。

今の洸太に安心しているのに。

昔の洸太を、少しだけ思い出してしまうんだろうって。

『ちゃんと仕事しろ』

洸太から返ってくる。

やっぱり、この人と話していると力が抜ける。

高校の頃も。

離婚したあとも。

きっと、自分はずっとこういう時間が欲しかったんだと思う。