君と終わった街で

文姫はスマホを胸ポケットへしまい、オフィスへ入る。

朝のフロアは慌ただしかった。

電話の音。

キーボードを叩く音。

誰かの指示が飛ぶ声。

大型モニターには広告のラフ案が映し出されている。

文姫も席へ座り、パソコンを立ち上げた。

仕事は嫌いじゃない。

忙しくしていると、余計なことを考えなくて済むから。

でも今日は、少し集中できなかった。

気づけばスマホを見てしまう。

洸太から、また何か来ていないか確認してしまう。

そんな自分に、少し驚く。

高校の頃みたいだ、と思った。

あの頃も、授業中に携帯を気にしていた。

洸太からLINEが来るだけで、少し楽しくなっていた。

でも、自分はそれを“恋愛”とは思っていなかった。

安心できる友達。

一緒にいて楽な相手。

そう思っていた。

なのに。

今こうして再会して。

また同じように洸太を気にしている。

それが何なのか、自分でも分からない。

「文姫さん」

不意に名前を呼ばれ、文姫は顔を上げる。

上司だった。

「先方の修正、今日中でいけそう?」

「あ、はい。やります」

慌てて画面へ視線を戻す。

仕事。

今はちゃんと集中しないと。

文姫は小さく息を吐いて、キーボードへ指を置く。

でも。

その時、またふと思い出してしまう。

昨夜の電話。

『今の洸太、私は好きだよ』

自分で言ったくせに。

思い返すたび、胸がざわつく。

好き。

その言葉の意味を、まだ自分で整理できていなかった。

高校の頃みたいな“恋愛感情”とは違う気がする。

でも、“友達”だけでもない。

じゃあ何なんだろう。

文姫は画面を見つめたまま、小さく眉を寄せる。

その時。

スマホが小さく震えた。

反射みたいに視線が向く。

『ちゃんと仕事しろ』

洸太からだった。

文姫は思わず吹き出しそうになる。

まるで見透かされているみたいで。

本当に見られてるのかと思って辺りを見回す。

少し悔しくて。

でも、嬉しかった。