君と終わった街で

駅までの道を歩く。

朝の東京は忙しい。

誰もが足早で。

誰も他人に興味なんてなさそうな顔をしている。

文姫も、その流れに紛れながら電車へ乗り込んだ。

満員電車。

押し込まれる身体。

誰かの肘が肩に当たる。

その瞬間、ふいに昔の記憶が蘇る。

怒鳴り声。

掴まれた腕。

冷たくなった部屋の空気。

文姫の呼吸が少し浅くなる。

視線を落として、小さく息を吐く。

――大丈夫。

もう終わったことだ。

頭では分かっている。

でも身体は時々、勝手に思い出す。

そんな時。

スマホが小さく震えた。

文姫は少し驚きながら画面を見る。

『ちゃんと朝飯食えよ』

洸太からだった。

その一文を見た瞬間。

張っていた神経が、少しだけ緩む。

文姫は混雑した電車の中で、小さく笑った。

そして気づく。

今、自分は。

洸太に、助けられている。

その事実に、文姫は少し戸惑った。

高校の頃は逆だった気がする。

洸太の方が、ずっと不安定で。

勝手に期待して。

勝手に傷ついて。

文姫はいつも、その感情を受け止めきれなかった。

でも今は違う。

落ち込んでいるのは、自分の方だ。

恋愛が怖くなって。

人を信じることにも疲れて。

何も感じないように生きていた。

そんな自分が。

たった二日、洸太と話しただけで。

こんなに心が軽くなっている。

電車が駅へ滑り込む。

人の流れに押されながら、文姫はスマホを握り直した。

『洸太こそちゃんと食べなよ』

送る。

数秒後。

『俺は食う』

『大人だから』

思わず笑う。

『昨日夜中にラーメン食べたいとか言ってた人が?』

『あれは別腹』

『おっさんじゃん』

『うるさい』

そのやり取りを見ながら、文姫はホームを歩く。