その時。
『ねえ』
また通知が届く。
『今度会った時さ』
『洸太の昔話聞きたい』
洸太は眉を上げる。
『昔話?』
『この十年なにしてたか』
『全然想像つかない』
その文章を見ながら、洸太はふと考える。
この十年。
何をしてきたんだろう。
仕事して。
適当に生きて。
誰とも深く関わらないようにして。
気づけば三十歳が近づいていた。
そんな十年だった。
でも、その中で。
文姫のことだけは、一度も完全には消えなかった。
思い出さない日は、たぶんいくらでもあった。
仕事に追われて。
疲れて寝落ちして。
気づけば一週間が終わっているような日々の中で、文姫の名前を考えない時間も増えていた。
それでも。
雨の日とか。
夜のコンビニとか。
昔よく聴いていた曲が流れた時とか。
ふとした瞬間に、急に思い出すことがあった。
元気にしてるんだろうか、と。
誰かと笑ってるんだろうか、と。
そのたびに、少しだけ胸が痛くなった。
洸太はスマホを見つめたまま、小さく笑う。
『そんな面白い人生じゃないぞ』
送る。
少し間が空く。
『私も』
返事は短かった。
でも、その四文字が妙に寂しく見えた。
洸太は指を止める。
バツイチ。
その言葉が、まだ胸のどこかに引っかかっていた。
聞きたいことはある。
どんな人だったのか。
なんで離婚したのか。
幸せだったのか。
でも、まだ踏み込んではいけない気がした。
十年ぶりに再会して、まだ二日目だ。
そんな簡単に触れていい時間じゃない。
『まあでも』
文姫からまた通知が来る。
『久しぶりにちょっと楽しい』
その一文を見た瞬間。
洸太は静かに目を伏せた。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
高校の頃。
文姫にそんなことを言われたら、きっと舞い上がっていた。
勝手に期待して。
勝手に未来を想像して。
そしてまた、勝手に苦しくなっていたと思う。
でも今は違う。
嬉しい。
ただ、ちゃんと嬉しかった。
それだけで十分だった。
『俺も』
送る。
短い一言。
でも、それ以上の言葉が見つからなかった。
少しして。
『なんかさ』
『高校の時より、今の方が洸太とちゃんと話せてる気する』
洸太は、その文章をしばらく見つめる。
昨日、喫茶店でも似たようなことを言った。
きっと文姫も、同じことを感じている。
十年前は近すぎた。
近すぎたから、上手く話せなかった。
好きになりすぎていた洸太と。
好きになりきれなかった文姫。
あの頃の二人は、たぶんちゃんと向き合えていなかった。
でも今は違う。
失った時間があるからこそ、落ち着いて話せる。
それが少しだけ、皮肉だった。
『今なら、ちゃんと友達になれそう』
文姫から届いたその一文に。
洸太の指が、止まった。
静かな部屋だった。
窓の外では、遠くを走る車の音が微かに聞こえる。
スマホの明かりだけが、暗い室内に浮かんでいた。
友達。
その言葉を見た瞬間。
胸の奥が、少しだけ冷える。
……ああ。
そうだよな、と洸太は思う。
文姫にとって、自分はそういう存在なのだ。
昔も。
そして今も。
もちろん、分かっていた。
再会したからって、急に何かが変わるわけじゃない。
十年前、文姫はちゃんと自分を振っている。
恋愛としては見れない、と。
『ねえ』
また通知が届く。
『今度会った時さ』
『洸太の昔話聞きたい』
洸太は眉を上げる。
『昔話?』
『この十年なにしてたか』
『全然想像つかない』
その文章を見ながら、洸太はふと考える。
この十年。
何をしてきたんだろう。
仕事して。
適当に生きて。
誰とも深く関わらないようにして。
気づけば三十歳が近づいていた。
そんな十年だった。
でも、その中で。
文姫のことだけは、一度も完全には消えなかった。
思い出さない日は、たぶんいくらでもあった。
仕事に追われて。
疲れて寝落ちして。
気づけば一週間が終わっているような日々の中で、文姫の名前を考えない時間も増えていた。
それでも。
雨の日とか。
夜のコンビニとか。
昔よく聴いていた曲が流れた時とか。
ふとした瞬間に、急に思い出すことがあった。
元気にしてるんだろうか、と。
誰かと笑ってるんだろうか、と。
そのたびに、少しだけ胸が痛くなった。
洸太はスマホを見つめたまま、小さく笑う。
『そんな面白い人生じゃないぞ』
送る。
少し間が空く。
『私も』
返事は短かった。
でも、その四文字が妙に寂しく見えた。
洸太は指を止める。
バツイチ。
その言葉が、まだ胸のどこかに引っかかっていた。
聞きたいことはある。
どんな人だったのか。
なんで離婚したのか。
幸せだったのか。
でも、まだ踏み込んではいけない気がした。
十年ぶりに再会して、まだ二日目だ。
そんな簡単に触れていい時間じゃない。
『まあでも』
文姫からまた通知が来る。
『久しぶりにちょっと楽しい』
その一文を見た瞬間。
洸太は静かに目を伏せた。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
高校の頃。
文姫にそんなことを言われたら、きっと舞い上がっていた。
勝手に期待して。
勝手に未来を想像して。
そしてまた、勝手に苦しくなっていたと思う。
でも今は違う。
嬉しい。
ただ、ちゃんと嬉しかった。
それだけで十分だった。
『俺も』
送る。
短い一言。
でも、それ以上の言葉が見つからなかった。
少しして。
『なんかさ』
『高校の時より、今の方が洸太とちゃんと話せてる気する』
洸太は、その文章をしばらく見つめる。
昨日、喫茶店でも似たようなことを言った。
きっと文姫も、同じことを感じている。
十年前は近すぎた。
近すぎたから、上手く話せなかった。
好きになりすぎていた洸太と。
好きになりきれなかった文姫。
あの頃の二人は、たぶんちゃんと向き合えていなかった。
でも今は違う。
失った時間があるからこそ、落ち着いて話せる。
それが少しだけ、皮肉だった。
『今なら、ちゃんと友達になれそう』
文姫から届いたその一文に。
洸太の指が、止まった。
静かな部屋だった。
窓の外では、遠くを走る車の音が微かに聞こえる。
スマホの明かりだけが、暗い室内に浮かんでいた。
友達。
その言葉を見た瞬間。
胸の奥が、少しだけ冷える。
……ああ。
そうだよな、と洸太は思う。
文姫にとって、自分はそういう存在なのだ。
昔も。
そして今も。
もちろん、分かっていた。
再会したからって、急に何かが変わるわけじゃない。
十年前、文姫はちゃんと自分を振っている。
恋愛としては見れない、と。
