あの夏、君だけを見ていた

明らかに顔が白い。
まじで心配だから。倒れたら困るから。
……君に、何かあったら困るから。

「これ、着とけば」
休憩室に入って紬ちゃんにパーカーを投げる。

思わず受け取った紬ちゃんが、「え?」と聞いてくる。
……なに、その顔で俺が気付かないとでも思った?

「エアコン効きすぎて寒いんじゃない?」
「顔色悪いよ」

「大丈夫」
真っ白な顔で言われても、何の説得力も無い。

「帰りなよ」

「……でも、今日2つ学科受けたら、来週仮免試験受けられるから」

「じゃあ、それ着てて」
「着るか、帰るか、どっちか」

……多分、着ないでしょ。帰りなよ。

「……じゃあ着る。ありがと」
紬ちゃんが俺のパーカーを着るのを見て、変な気持ちになる。
……ああ、好きな子に服貸すのって、こんな気持ちになるんだ。

パーカーを着た紬ちゃんが固まる。
……分かってるよ、脱ぐでしょ?
彼氏に、悪いことしてるような気になったんでしょ?

「あ、エアコンの温度少し上げてもいいっすか?」
スタッフさんを捕まえて声を掛ける。

「これで俺のパーカーは要らないか」
温度を上げたのを確認して、紬ちゃんが脱いだパーカーを回収する。

「ごめん、ありがと」

紬ちゃんは泣きそうな顔をしていて、見ていられなかった。
手を振って休憩室を出た後、パーカーをロッカーに投げ入れた。