婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 ドレスの生地の胸の辺りを、ぎゅっと強く掴んでしまった。

 この感情を割り切るには、まだ若く、私はおそらく……婚約者セシルをデイジーに取られたくないと思っていることを、認めたくはないのだ。

 こんな気持ちと向き合いたくない。死にたいくらいに辛い気持ちになることは、目に見えているから。

 心を落ち着けた私がお茶会の場に戻れば、セシルはデイジーと何かの書類を書き合っていた。

 そして、まるで祝福するかのような周囲の拍手と共に漏れ聞こえる鈴が鳴るような可愛らしい声。

 何かしら……? セシルとデイジーは何をしているの?

「……ふふふ。なんだか、アイリーン様に悪いけど……」

「デイジー。良いではないか。これは、単なる遊びなのだから」

「そうそう。アイリーンは良く出来た婚約者だ。婚姻届を書くだけの遊びなど、大したことだと思わないだろう」

 そして、私の耳に聞こえてくるのは、どっと楽しそうな笑い声。セシルはいつものように無表情のままで、何も言わなかった。

 私は胸を押さえて、息が詰まりそうになった。

 ああ……嘘でしょう。