婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

「……っ……!! セシル」

 先ほど見掛けた時には、デイジーにべったりと纏わり付かれていた婚約者セシルが、階段から落ちかけた私の腰をがっしりと掴んでくれていたのだった。

「……大丈夫か」

 短く問いかけた低い声に、私は慌てて頷いた。

 ああ……驚いた。セシルがこんなにも距離が短かったことなんて、これまでになかったから。

 セシルは私の手を引いて、階下にまでエスコートしてくれると、何も言わずに去ってしまう。

 ……そこで、私はやっと気が付いたのだ。彼は私の危ないところを助けてくれたというのに、感謝もしていない。

「……あ、あの! セシル……助けてくれて、ありがとう」

「ああ」

 私が勇気を出してお礼を言っても、セシルは素っ気なく答え振り向きもせずに行ってしまった。

 ……何よもう。平民の愛人を囲うために、お飾りの貴族の妻が居るだけなのは……わかっているけれど。

 それはわかっているけれど、私がまさか、そんな損な役回りをするだなんて、なんだか信じられなかったのだ。

「どう考えても、私はお飾り婚約者……よね。それはもう、わかっているんだけど……」