婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 私はそこで、ハッと気が付いた。父母や兄から、何度も何度も言われた言葉だ。

「……そうだわ。お父様やお母様、それにお兄様からは、セシルと結婚するまでは、待てと……そう言われていたわ。ずっと」

「それも、おかしいですよね。結婚前から、愛人が居るから嫌だと言って居るのに、結婚まで待てと……? それは、おかしな話です。アイリーン様……ここを見てください。その魔物は、人の悲しみや苦しみを好物にしていると書かれているのです」

 ……私はここで、気が付いてしまった。

 セシルはあの時、泣いていた。

 私には何も言えないからだ。

 もし、デイジーがその魔物であったとする。デイジーはセシルを苦しめたり悲しませたりしたかったとする……婚約者の前で……自分は何も言えないのに、愛人然として振る舞われたら……?

 私はもちろん怒り悲しみ、セシルのことを嫌いになる。けれど、セシルは私に弁明は出来ないのだ。

 魔物はセシルの悲しみや苦しみを望んでいる……もし、そうだとしたら。

「ああ……エリン。私はとんでもないことに、気が付いてしまったわ」

 私は思わず涙をこぼしてしまった。