婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 けれど、身分制度はとても厳しく本来平民であるデイジーがクレイヴン公爵家で厚遇を受けているのなら、それは何か『特別な理由』があるということではないのだろうか。

「……もしかしたら、アイリーン様には想像もつかないような……そんな、面白い正体なのかもしれませんわね」

「え……?」

 エリンはどこか楽しそうに言ったので、私は目を見開いた。まるで、彼女はデイジーの正体を知っているような口振りだったのだ。

「知りたいですか? アイリーン様。知ったらもう、戻れないかもしれませんよ……」

「知りたいわ! だって、私はセシルとの関係を既に終わらせようとしたのよ。怖いものなんて、もうないわ……」

 エリンの問いかけに私は被せるように頷いた。知りたい。これまでに自分を苦しめてきた、そんな正体を。

「ええ。それでは……面白いものを、お見せしましょう……」

 エリンが差し出した本は、とても古い本だった。表紙はボロボロで、今にも老化した紙の繊維がこぼれ落ちそう。

「これは……?」

 不思議に思いエリンを見れば、彼女は慎重に栞を挟んだ頁を開いていた。