婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 けれど、セシルは静かに泣いていた。何も言わなかった。こんな時だって、無表情のままだ。

 どうして泣くの? 私と婚約を解消して、デイジーと楽しく暮らせば良いのに。

 何なの……? どうして。私がまるで、セシルを虐めているみたいじゃない。

 何も言えずに立ち尽くす私へ執事が兄のスティーブが追い掛けてきた事を伝えて、セシルに何も言えないままでその場を去るしかなかった。


◇◆◇


「まあ……そんなことがあったのですか」

 誰にでも言って良い出来事ではないとわかりつつ、どうしても我慢出来なかった私は、貴族としての作法を教えてくれる家庭教師(ガヴァネス)のエリンに昨日あった出来事を話した。

 エリンはとても聡明な女性だ。

 元々は男爵令嬢で嫁いだ男性がすぐに戦死を遂げてしまい、未亡人になった。けれど、彼を愛しているのですぐに再婚には踏み切れず、こうして自ら働いて生計を立てているのだ。

 彼女は私を尊重してくれつつも、教育には手を抜かなかった。家庭教師としての職務を全うしているとも言える。