婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 私は微笑みを浮かべてそう言った。

 何も感じてはいけない。今は何も。

「ふふふ……よろしくお願いします。それでは」

 愛らしく微笑んだ彼女は軽やかな足取りで、私のすぐ横を通り過ぎて行った。

 白い雲の浮かぶ青い空は美しく、私の後に続く使用人たちは、リンスコット伯爵邸へと帰り着くまで、何の言葉も発さなかった。


◇◆◇


 私は数時間、セシルには何も言うべきではないと思った。

 このような状況は、今に始まったことではないのだから、割り切るべきなのだと。

 どんなに辛い気持ちになったとしても、何を言っても無駄なのだから。

 けれど、どうしても我慢出来ず、気が付いたらクレイヴン公爵邸へ向かう馬車へ乗っていた。

 ……セシルは私の話を聞けば、激怒するかもしれない。けれど、それで良かった。

 激怒してもらって、私との婚約を解消しようと思ってくれた方が、どれだけ気持ちが楽だろう。

 何故、結婚をする前から、愛人候補の女性にここまでの侮辱を受けなければならないの?