婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 おそらくは、何か打撃を与えてこの乱暴者を一撃で沈めたようだけど、私には何がどうなったのかわからなかった。

 ……セシルって、こんなに強いの? 驚いたわ。貴族の跡取りなのだし護身術程度は、一通り身に付けているだろうけれど……。

「別に……何でもないわ。一人になりたい時だって、あるでしょう」

 今日だけで二度助けられたけれど、どうしても彼の隣に常に居るデイジーを思い出してしまい私はセシルを睨み付けた。

 嫌な人。

 貴方が愛らしいデイジーとふざけて婚姻届を書いていたから、むしゃくしゃしていたなんて、絶対に言いたくないわ。

「こんな、危険な目に遭って……いい加減にしろ」

 苦しげな声でセシルは静かに言い、すぐ傍にまで来ていたらしい兄スティーブが、その場に駆けつけてきた。

「アイリーン! アイリーン。ああ良かった。無事だった……申し訳なかった。セシル。これからは、このようなことがないように、妹には良く言い聞かせる。悪かった」

「……よろしくお願いします」

 スティーブの謝罪にセシルは素っ気なく答えて、希望的な勘違いでなければ私を一瞬切なげに見てから、くるりと背を向けた。