婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

「やめて。離して……! 誰か、誰か、助けてください!」

 私は助けを求めて周囲を見渡したけれど、皆目を合わせないように視線を伏せて通り過ぎて行く。

 そんな……ああ。誰かの揉め事に巻き込まれるなんて、それは嫌かもしれない。

 どうしよう……そうよ。近くに治安維持のために見回りをしている兵士か誰か、そういう人が近くに居てくれれば……そうよ。悲鳴をあげればなんとかなるかもしれない。

「助けて……! 助けて! 誰か! 助けてください!!」

 私が必死で悲鳴をあげれば、口を手で塞ごうとした目の前の男は呆気なく崩れ落ちた。

 ……なっ……何? え。何があったの?

 私は助かったことをすぐには理解出来なかった。だって、こんな男性に連れて行かれれば、どうなってしまうかわからない。

「……アイリーン。一体、何をしている」

 あ。セシル。

 私は驚いた。そこに居たのは、私を蔑ろにする婚約者で……その筈なのに、私の声を聞き必死に走って来たのか息荒く肩が上下していた。

 セシルは彼の姿を見付けて呆然とした私を睨み付け、地に伏した男の身体を一度踏みつけた。