婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 落ち着いた私はとりあえず、兄が乗っていた馬車がある場所へ行こうと思った。

 甘えていると言われようが、リンスコット伯爵家の面々が、逃げた私を探して居ないわけがない。

 だから、あの衝動的に逃げ出した場所に戻れば、どうにかなるのではないかと考えたのだ。

 そうして、日が暮れる手前の街を歩いていたら、私はいきなり乱暴に腕を掴まれた。

「……! 何を」

「……おい! 貴族令嬢がこんな場所で何をしている? なんだぁ? お付きの者も近くに居ないのか?」

 荒々しい言葉を放つ男性は、顔に傷がありいかにも荒くれ者といった風情で、私のことをまるで品定めするように下から舐めるように見た。

 背筋にはゾッとした寒気が走った。

「……離してください!! 離しなさい!」

 私はなけなしの勇気を出して声を出したけど、彼はにやにやと下卑た笑いを顔に浮かべ、より強く腕を引っ張った。

 そして、私の腕にあるドレスの手触りを確かめるように触った。嫌な手つきで不快さが増し肌が粟立った。

「ははは! 本当だ。これは、上質なドレス……本物の、貴族令嬢だ!」