婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 そう。私は一人だけ、嫌な思いをしている。こんなに悪い状況に居るのは私だけで、家族だって同情はしても助けてくれるために動くことはない。

 可哀想な立場だと思われても、誰も味方をしてくれるわけでもない。家族も未来の婚約者も、私の気持ちなんてどうでも良いのだ。

 貴族令嬢として生まれ育った私は、そうだとしても『家出してやる!』などという、そんな投げやりな気持ちにはなれなかった。

 だって、私は産まれた時から貴族令嬢で、市井で生きられるという闘志もない。嫌だ嫌だと嘆きながらも、父や家族の望み通りに愛されない婚約者の元に嫁ぐしかない。

 ……それが、一番に自分でもわかっていた。どんなに嫌だと騒いだところで、我慢してセシルに嫁ぐことしか出来ない。

 そろそろ夜の紫が混じり始めた茜色の空を見て、私は帰ろうと思った。

 こんな場所に少しだけ逃げてきたって、帰るべき場所はリンスコット伯爵邸だ。

 そうでなければいけない。

 だって、私は何も持たぬ無力な貴族令嬢で、貴族として生きていく以外の道を知らないのだから。