婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

「嫌よ……! お兄様。どうして、私は自分のことを好きでもなければ、大事にもしてくれない……あんなお茶会の場でも他の女性を優先するような人と、結婚しなければいけないのですか! ……あんな人と結婚したくありません!」

 私は折良く交差点の行き交いで停まっていた馬車の扉を開き、ドレスの裾を持って衝動的に駆け出した。

 兄が名前を呼ぶ声が聞こえたけれど、どうしてもこの気持ちのぶつけどころがわからないのだ。

 ドレスの裾を掴んだ私は一気に坂を駆け上がり、高台へと出た。そして、暮れゆく夕暮れの空を見つめていた。

 普段ほとんど走ったことがないせいか、息が荒くなり身体もふらふらになってしまった。

 ……はああ。

 どうすれば良いの。私はセシルと結婚したくはない。どうせなら、私と婚約解消して、愛人込みの条件で結婚してくれる人と婚約して欲しい。

 セシルがいっそ、好感が持てないような……そんな男性であれば、良かったかもしれない。

 私だって、立場というものがある。同じような貴族令嬢の中で、腫れ物を扱うような対応をされることにだって、嫌気がさしているのだ。