婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 落ち着いた様子のお兄様は、あの二人がふざけて婚姻届を書いている場面を見て居ないようだ。

 お茶会は年齢の近いグループなどで別れるから、お兄様は現クレイヴン公爵たちと、気の抜けない政治的な会話を楽しんでいたのだろう。

「では、帰ろうか。馬車も既に用意させている」

「ええ。そうしましょう」

 使用人たちに軽く合図をした跡継ぎの兄に続き、私はリンスコット伯爵家の家紋が入った馬車へと乗った。

「……あの。お兄様。これまでに何度も話したことですけれど……私はセシルと結婚したくはありません。彼だってそう思って居るのでは? 婚約解消をして、お互いにもっと合う人が居ると思うのです」

 私は偶然に見てしまった、あの悪夢のような光景を思い出した。

 ふざけて婚姻届を書き、それをもてはやし面白がる周囲。あれをされて傷つくであろう私の気持ちなんて、誰も気にしていない。

 そんな場所へお嫁になんて行きたくない。これを思うことは、自然なことだと思う。