婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

 あの二人……遊びとは言え、こんなにも多くの人が居る場で二人で婚姻届を書いている振りをしているのだわ……。

 婚約者の私が近くに居るとわかっていて……なんて、最低な人たちなの。


◇◆◇


「ああ……アイリーン。ここに居たのか。どこに行っていたんだ」

「お兄様」

 とんでもない場面を目撃し、もう一度離れてお茶会会場に戻りかけた私は、クレイヴン公爵家へと共にやって来ていた兄スティーブに呼び掛けられた。

 兄は私と同じ茶色の髪と同色の瞳を持っているけれど、あまり似ていず、彼は美形で背が高く、やたらと異性に好まれる。

 外見が良いって……本当に、良いわよね。私だって、お兄様に似て生まれたかった。

 そうすれば……婚約者を愛らしい誰かに取られる事もなかったかもしれない。

「もう既に、お茶会はお開きの時間だ。アイリーンはセシルへ挨拶を済ませたのか?」

「……ええ」

 別れの挨拶はしていないけれど、一応さっき会うことは会った。

 もうそれで良いだろうと思う。セシルだって、わざわざ私に会いたいとも思っていないだろうし。