その男、ダンディーにつき



 想いが通じ合い晴れて恋人同士となったふたり。

付き合い始めてからの瀬川の変貌ぶりに咲は戸惑いを隠せない。

職場では相変わらず塩対応なのに、二人きりになると、

「……咲」

 自宅マンションの玄関を開けるなり抱きしめられる。

「"ただいま"より先ですか?」

「君不足だった」

 真顔で言うから困る。

ついさっきまで同じ事務所にいたはずなのに。

「ずっと抱きしめたくてたまらなかった」

 肩口に顔を埋める彼の髪に指を通すと、彼は気持ちよさそうに目を細める。

「……やっぱりこの髪が好きです。綺麗……」

 そう囁くと瀬川は咲の首筋に噛み付く様なキスをする。

「そんなことを言うのは咲だけだ」

「私だけでいいんです」

 その返答に、瀬川は目を見張った。

それからひどく幸せそうに破顔させる。

「……敵わないな。どこまで俺を沼らせるつもりだ」

 瀬川のこんな顔を見ることができるのは咲だけだろう。

愛おしさが溢れて、咲は自ら瀬川にキスをする。

「私だけの先生でいてくださいね」

「先生?」

 呼び方を指摘されハッとする。

プライベートでは名前で呼び合うよ約束をしたが、なかなか仕事の癖が抜けない。

と、言うのは建前で、瀬川のことを名前で呼ぶ事にまだ慣れていない。

彼の名前を口にするたび、緊張と好きが化学反応を起こして胸が苦しくなるから。

「……すみません。しゅ、秀治さ……んっ」

 再び唇が重なる。

「咲。そういえば昼間、依頼人に嫉妬していただろう?」

 キスの合間に瀬川は聞く。

「……してません」

 咲はフルフルと首を左右に振る。

けれど瀬川は咎める様に彼女を真っ直ぐに見つめる。

「顔に出ていたぞ」

 嘘を見透かされ、咲は戸惑いを隠せない。
 
「だって……」

 昼に来た依頼人の女性は瀬川を食事に誘っていた。ハッキリと断ってはいたが、満更でもなさそうに見えた。

「だって?」

「秀治さん、モテるから……」

 瀬川は一瞬黙って、それから咲の身体を強く抱きしめる。

「俺が欲しいのは君だけだ。他の女には興味はない」

「……本当に?」

 わかっていてもつい、確かめてしまいたくなる。

「どうすれば信じてもらえる?」

「証明が欲しいです」

「……そうだなぁ。幸い明日は休みだ。時間はたっぷりある。このままベッドへ行こうか?」

 そう問われて咲は耳まで真っ赤に染まる。

それを見た瀬川が嬉しそうに笑った。

「いやらしいな、咲は」

 耳元で低く囁かれ、鼓膜が甘く震える。

「マッサージでも、と思ったが、抱いて欲しかったのか?」

「ちがっ、」

 訂正しようとするとまた甘く口を塞がれた。

瀬川からのキスは愛情に満ちていて、咲の不安を払拭するに充分だ。

「ん。秀治、好き……誰にも渡したくない」

年齢を重ねた彼の色気も。

ずるい駆け引きも。

甘すぎる愛情も。

「安心しろ。俺は咲だけのものだ」



おわり