その男、ダンディーにつき


 迎えた月曜日。

憎らしいほどの晴天に咲はため息を漏らす。

普段より一時間も早く出社し、ささくれ立つ気持ちを落ち着けるように丁寧に掃除をした。

それからコーヒーを淹れてデスクに座る。

けれど全く集中できない。

書類の文字は頭に入らず、コーヒーは冷めていく。

瀬川は誰かとカップルになっただろうか。

お相手は若くて綺麗な女性だろう。

例えば、弁護士とか医者とか良家のお嬢様とか、

再婚相手として申し分ない人に決まっている。

もう結婚はゴリゴリだと言っていたはずなのに、男というものはなんて身勝手なのだろう。

無性に腹が立つ。

苛立つ理由も分からぬまま、咲は冷めたコーヒーを飲み干す。

そんな彼女を見て、瀬川はどこか嬉しそうに目を細めた。

「機嫌が悪そうだな」

「べつに、普通です」

「そうか。婚活相手の話、聞くか?」

「聞きたくありません!」

ダンと、コーヒーカップをデスクに叩きつけた。

しまった、と思ったが時すでに遅し。

事務所内がシン静まり返る。

咲はおもむろに立ち上がると給湯室へと駆け込んだ。

「やってしまった」

 瀬川の話を遮るためとはいえ、あの態度は大人気なかった。

みんなも驚いていたし、彼に対してもだいぶ失礼だった。

「気まずい、気まず過ぎる!」

 咲はひとり、頭を抱える。

やがてコツコツと靴音が聞こえ、咲は顔を上げた。

瀬川が給湯室へと入ってくる。

逃げようとしたその瞬間、手首を掴まれた。

「……あの、先生?」

「こっちへ」

 有無を言わせない声だった。

連れて行かれたのは誰もいない会議室。ドアが閉まる音に、心臓が跳ねる。

瀬川は咲を壁際へ追い詰めるように立った。

「なぜ聞きたくない?」

 俯く咲の顎先を指ですくうように持ち上げる。瀬川からまるで貫く様な視線を向けてられて咲は観念する。

もう、逃れられない。

「……嫌だからです」

「何が?」

「先生が……」

 声が震える。

「誰かのものになるのが、嫌なんです……」

瀬川の表情が変わる。それと同時に咲の瞳から涙がこぼれ落ちる。

もう、隠せなかった。

「好きなんです……っ」

 言ってしまった。

フラれたら仕事がしにくくなる。だから告白なんてしたくなかったのに。

もう終わりだ。

絶望の淵に堕ちた次の瞬間、強く、けれど壊れ物を扱うように抱きしめられる。

「……やっと言った」

 耳元に落ちる声は驚くほど優しかった。

「婚活なんてしていない」

 咲は目を見開く。

「……は?」

「髪を染める気もない」

「え?」

「全部、君の反応が見るためだった」

瀬川は誰のものにもなっていなかった。安堵しつつもじわじわと怒りが込み上げてくる。

(反応をみる、ため?)

「私のこと試したんですか?」

「そうなるな」

 まったく反省していない声で瀬川は笑う。

「最低……」

「でも好き、なんだろう?」

「……はい」

「俺も好きだ」

 低く甘い声が心の奥に響く。

「い、今なんて?」

「二度は言わん」

「そんな」

 ガックリと肩を落とす咲。

そんな彼女の瀬川は言葉の代わりのキスを落とす。