[夜カフェにて]
真由ちゃんと話が盛り上がる。
「え、何それ。じらしたら逆にカレシが燃えちゃったのかぁ。」
「そうなのよ。でも揉めたりしなくて良かった。」
「それで文句言うような男は最初からその程度だよね。で、1年待たせちゃうわけ?」
「うん、でもさすがに1年は長いかな?って最近自分でも思うんだよね。でも年明けすぐは、ちょっとねー。覚悟が出来ないよ~。」
「そっかそっか。タイミング分かんないよね。私達、結婚っていうものを経験したことが無いんだもん。当たり前よね。まぁ、カレシもそれは同じだろうけど。れいなが結婚したいって思ったときに、言ったらいんじゃないの?ねぇ、今から家に行ってもいい?なんかもっと深い話をしたいなぁ。ふふふ。」
部屋に着くと、珍しくケンさんが何も言わずに来ていた。
帽子とボディーバッグをソファーに投げっぱなしのまま、ダイニングテーブルでハイボールを飲んでいた。
「あー、すみません。はじめまして。ケンジです。今日は連絡せずに合鍵で入ってしまったんで。そんなときに限って。ねぇ。俺帰ろうか?」
「あ、こちら真由ちゃん。」
「はじめまして。真由です!れいながいつもお世話になってまーす。いいです、いいです!今夜は私も仲間に入れてください!」
2時間ほど3人で喋って、真由ちゃんは楽しんでくれて帰って行った。
同じ町内会で、うちから徒歩1分と言う超ご近所の実家に住んでいる。
高校時代からの友人だ。
「いい子だね~。なんか明るかったなぁ(笑)」
「でしょ?もう半年、カレシいないんだよ。誰かか合う人・・・いないかなぁ?」
「明るいって言えば、あいつしか思い浮かばないなぁ。」
「加門くん!」
「加門さん!」
橋口家で、加門さんと真由ちゃんを引き合わせてみる作戦は失敗に終わった。
真由ちゃんは商店街の個人経営の商社で20年間事務職をしている。
「加門さんは見た目がタイプじゃない。」
そうだ。
加門さんは真由ちゃんの事を「いい子だな」と好印象を持ってくれた。
けれど、真由ちゃんのほうから会ったその日のうちに
「付き合うとかそう目線は無いです。」
とラインをしたそうだ。
バンドマンが好みなので音楽を仕事にしている加門さんが合うかと思った。
それよりも二人の会話は明るくて楽しそうに見えた。
だからうまくいくと思ったんだけど。
真由ちゃんはギタリストとかベーシストとか、そういう系統じゃないとときめかないんだそうだ。
私とケンさんの作戦はあっけなく終了した。
人を繋げようとしてる場合じゃないのだ。
自分はどうしよう・・・。
あれから、ケンさんからダイヤ入りのネックレスを買ってもらった。
会社で季節ごとに出かけるアパレルの展示会や、高校時代の友人と会う時などに着けて行った。
仕事に着けて行ったら、あゆむんから
「ダーリン、まめっすねぇ。しかも高そう。大人の男の余裕感じますね。俺、そんないいもの買ってあげれないっすよ。」
「ごめん、給料安いよねぇ。」
「いやいや!そう言う意味じゃないです。俺なんか、まだまだ自己投資したい年代だなーって思って。」
「あゆむん、来年、卒業したらうちの本社で正社員にならない?」
「えー。そうなんすか。セレクトショップの〇とか、スポーツブランドの〇に採用もらってるんすよね。
でも、ぶっちゃけれいなさんとは、離れたくないなぁ。考えさせてください!」
「本社行くと、私とは離れちゃうよ?でもスーツのセミオーダーを作れるから。ショップ店員みたいに売り上げノルマだけの仕事じゃないから。専門学校で勉強した事を活かしてほしいって思ってるんだ。」
「俺、本当はデザイナー志望なんすよ。でも全然そっちの採用は貰えなくて。落ち込んでたんです、才能ないんだなぁって。セミオーダー、やってみたいです。」
あゆむんは洋服の事になると本当に真面目な子だ。
だからこそこの人材は手放したくない。
ちなみにあゆむんは同じ専門学校の同じコースの女の子と、最近付き合い始めた。
[9月]
9月になってもまだまだ暑い。
ケンさんはほぼ毎日、私の部屋に帰ってくるようになった。
半同棲、から、ほぼ同棲、に進化した。
相変わらず、ケンさんは夕飯は粗食。
私は17時に仕事が終わったら豆腐を買いに行くのが習慣になった。
自分は相変わらずお弁当を食べて、ケンさんの帰宅、だいたい21時頃まではゆっくり過ごすことが多い。
ケンさんは私と付き合うまでは、夜中や明け方に仕事をする事が多かったらしい。
私に合わせてくれるようになったみたいだ。
ケンさんが帰宅したら晩酌するのを見ながら、1日の出来事をお互いに報告する。
そのあと一緒にお風呂に入って、しばらくゆっくりしてから23時頃に寝る。
だいたいルーティンが決まってきた。
休みが一緒になるのはだいたい週1日。
ケンさんはフリーランスなので私の店休日の日曜日と月曜日に休みを合わせてくれている。
定期的に一緒に橋口家にもお邪魔している。
そこには真由ちゃんも参加するようになり、賑やかになった。
[橋口家]
「もうすっかり新婚さんみたいだなぁ。」
加門さんが悪気無しに言う。
「それ、言っちゃダメなんだってば。」
しーちゃんが入る。
「え、そうなの?なんで・・・」
「男性には分かんない事もあるのよ。」
「ふ~ん、そんなもんかい。」
今夜はケンさんは仕事が入っているため、欠席。
真由ちゃんが
「このまま同棲をずっと続けるのもマンネリになんない?大丈夫なの?」
と心配する。
今日は餃子パーティーをしている。
「確かにね、生活的にはもうマンネリなのかも・・・。でも好きな感情が薄れたわけじゃないのよ。」
「付き合うのと結婚って全然違ってくるからね。私は20歳で、なんにも分からず結婚しちゃったけど(笑)」
しーちゃんの言葉にジンさんが思わず
「それって後悔してるって事?なんだか分かんないな。オンナって生き物は。ケンさんはれいなちゃんを手放したくないから早く結婚したいんだろ?ケンさんにとって、自分は価値がある存在だって思えない?」
「うーん。価値、ねぇ。いつも出掛けるのに連れて行ってくれたり、色々買ってくれたりするんだけど。
私は何かしてあげられてるかと言ったら、これと言って思い浮かばないんだよねぇ。ご飯も作ってないし。」
「それよ。料理よ。ちょっとやってみたら?食べてくれるかどうかは別として。いざとなったら基本的なものは作れたほうが、いいわよ。でも、それは自分のためにもなると思うから。」
しーちゃんの言葉に真由ちゃんもうなずく。
「れいな、本当に料理が嫌いだよね。静香さんに教えてもらって練習してみたら?」
「そうなのかなぁ?何のためになるの。」
「理屈じゃないよ。やってみな!」
最後は全員に押されて、早速明日からしーちゃんに和食を習うことになった。
[次の日]
「じゃ、今日はしーちゃんに、肉じゃが習ってくるね。ケンさんが帰ってくる頃に合わせるから。
21時くらいになると思う。」
「おぉ・・・。うん、分かった。頑張ってな。包丁、気を付けて。」
(何で急に料理を始める気になったんだ。張り切り過ぎて嫌になって、やっぱり婚約破棄しますとか言わねぇだろうな・・・。)
「いってらっしゃい」
ケンさんに見送られる。
今日は私のほうが早く家を出た。
(一応、ジン君にラインしとくか。)
「しばらく、れいなが料理を習うのでお世話になるね。大丈夫そう?」
ピコン
「うちの奥さんが言うには、結婚へのモチベを上げさせるためらしいから。途中で嫌になったらストップかけるから、心配するな。今夜、旨い肉じゃが持って帰ってもらうから、食えよ?」
「そうか。ありがとう。楽しみに待っとくよ。」
しーちゃんにだしの取り方の基礎から習った。
今までは粉末や液体タイプを使っていたが、煮干しや鰹節でだしを取るととても風味が良くて優しい味付けに仕上がった。
「6人分は作ったわね(笑)この大きいタッパーに入れて持って帰りな。待ってるんじゃないの?旦那さん。ふふふ。」
しーちゃんも熱血指導を終えて、満足そう。
「来週はかき揚げと天ぷらやってみましょ。」
美味しい白ワインもお土産で持たせてもらい帰宅。
ケンさんはもう帰って来ていて、ソファーに寝そべってスマホのゲームをしていた。
「あー、お帰り!どうだった?」
「疲れたけど楽しかったよ。一人で料理するより楽しかったし、しーちゃんに基礎から教えてもらってきた。はい、ワインももらってきたよ。」
「いただきます。」
ケンさんは夜は炭水化物を摂らないので、肉じゃがとワインで夕飯を堪能した。
「うん!旨いよ。凄いじゃん。」
「良かった~。来週はかき揚げと山菜の天ぷらを作るらしいの。昼食にうどんをして乗っけたらいいんじゃ無いかって。」
「いいな!休みの日に作ってほしい。楽しみにしてるよ~。」
ワインを少し飲んだら酔っぱらった。
慣れない事をしたので疲れたようだ。
以前、付き合いたての頃に出していた夕飯は、簡単な肉料理ばかり出していた。
おまけにケンさんが普段食べない白ご飯を、無理やり出していたので胃もたれを起こしてしまった。
ワインのせいでソファーで横になっていたら、朝まで寝てしまっていた。
布団が掛けられていて、枕も頭の下に丁寧に置かれていた。
「あ、お風呂入って店に出なくちゃ・・・」
「れいな、おはよー。トーストとサラダで良かったら用意してあるよ。目玉焼きもしてみたんだ、食べよ。」
コーヒーも淹れてくれた。
「ありがとう・・・至れり尽くせりだね。」
一緒に朝風呂に入って、体と髪を洗ってくれた。
お風呂から上がったら、バスタオルで体も拭いてくれた。
洗面所で濃厚なキスをする。
後ろから抱きつかれた。
「ここでする?」
ケンさんが避妊具を持って戻ってきた途端、指が下半身をなぞってきた。
全身が熱くなる。
立っていられず、そのままどうにかしてソファーまで来た。
朝からなのは久しぶりで、二人とも興奮した。
「遅刻していいから、もう1回しようよー?」
「あ、今日は俺がもう仕事行かないと。続きはまた今夜ね!」
ケンジは先日ジン君から言われていた。
「押すばっかりじゃダメだぞ。たまにはこっちも我慢してじらさないとな。オンナって面倒な生き物なんだ。そこは忘れちゃいけないぞ。」
本屋で1時間ほど時間潰しをしてから、のんびりスタジオに向かいながらふわふわと考え事をする。
(最近、れいなって本当に良いオンナになってきたよなぁ。前よりも色気が出てる気がする。体つきも
俺の好みになってきたしなぁ。あぁ、今が1番幸せなのかも知れないな。もう少しこの楽しい時間を堪能するのも悪くないか。しっかし、胸が良い感じにデカくなったな・・・ふふふ)
[れいなの店]
今日はあゆむんは17時出勤。
最近は専門学校での勉強に集中しているらしい。
彼女も出来たので忙しそうだ。
(なんか、体がダルいな。顔もむくんでるかも。すっごい眠い・・・休みまであと3日かぁ。次の休みはしーちゃんに料理を習いに行く予定だったけど、出掛けずに家にいよう。)
休みになっても倦怠感と眠気はおさまらなかった。
しーちゃんに電話する。
「そう言うわけで、今週はキャンセルさせてください。」
「どうしたの?疲れた?料理は無理しなくていいから、休みな。あ!ねぇ!もしかして。妊娠とかしてないよね?その症状、妊娠初期と同じだから。ちゃんと生理来てる?」
「そう言えば、ここ半年、ケンさんと付き合い始めてから予定日から遅れる事がが多いんだよね。今月は予定日はまだ。でもちゃんと避妊はしてるはず・・・あぁ・・・分かんない。たまにちょっと心配になる時があるんだよね。」
「どんだけ激しいのよ、あなた達は・・・。いいから暫くはエッチも禁止よ。大人しく寝てなー。生理来なかったらちゃんと検査薬するんだよ!」
まさか・・・妊娠!?
急に怖くなってきた・・・どうしよう。
ケンさんに話をしてみないとな。
[その日の夜]
「え・・・。出来たかもって事・・・?」
暫くは恋人としての時間を堪能しようと心が決まったばかりなのに。
妊娠したかも知れない?
「もし出来てたら。産むしか・・・ないよな!そしたらすぐに結婚しよう!」
状況がコロコロ変わる。
正直気持ちが追い付かない。
だけど、この場合、これしか答えはないじゃないか!!!
それから2日間は、お互いにおとなしくしていた。
(こう言う時に男ってのはうろたえるだけの生き物だな。我ながら、ほんと無能だ・・・)
ケンジはどうしようもなく、モヤモヤするだけだった。
3日間、熟睡が出来た私は体力が戻った感覚になった。
(下腹部が痛い・・・これは・・・)
「ケンさん!来た!生理が来たよぅ!」
「えっっ!そうかぁ・・・!俺、昨日本屋で名づけの本を見て来たばっかりなんだ(笑)そっか・・・うん。」
(勝手に見に行っただけだ。振り回されてるわけじゃないぞ。うん・・・)
「橋口夫妻にも心配かけただろう?連絡しときなよ?」
「うん。」
(れいなは妊娠していなかった事が嬉しそうだ。二人で決めてた事だから。いいんだよ、これで。)
この騒動以来、二人の関係がだいぶん落ち着いてきた。
避妊はきっちりやるようになり、行為をする回数が少し減ってきた。
付き合い始めて半年になる。
今は、夕方に川沿いを散歩をしたり、相変わらず商店街の美味しいお店に行ったり、町のほうにも出たり。
休日には都内を離れて、ドライブがてら他県に出掛けることが増えて来た。
今は道の駅巡りにはまっている。
ちょっと高級な温泉旅館にも泊りに行った。
この日は二人とも夜の営みをゆっくり楽しんだ。
[橋口家]
「はい。温泉のお土産~。」
しーちゃんに渡す。
「ありがとう!あー、これ美味しいよね。大好き!今みんなで食べようよ。」
「婚前旅行って感じだねぇ。いいなぁ、相変わらず仲良くて。」
加門さんが半分うらやましがって半分調子に乗って言う。
「新婚旅行、行くとしたらどこがいい?」
真由ちゃんに聞かれる。
「うーん。ハワイかヨーロッパがいいかなぁ?私海外に行ったことが無いんだよね。ねぇ、ケンさんは?」
「俺はどこでもいいかな。NYは昔仕事で行ったことがあるけど楽しかったよ。ハワイもヨーロッパも行った事ないなぁ・・・ハワイでバカンスのほうがのんびり出来ていいかもなぁ。ヨーロッパは普通に芸術を楽しむ旅行で行ってもいいしなぁ。」
「よくもまぁ、妄想でそこまで楽しめるな~。」
「幸せだよなぁ。いいなぁ。うらやましいぜ。」
ジンさんと加門さんが、口々に面白がって言う。
真由ちゃんと話が盛り上がる。
「え、何それ。じらしたら逆にカレシが燃えちゃったのかぁ。」
「そうなのよ。でも揉めたりしなくて良かった。」
「それで文句言うような男は最初からその程度だよね。で、1年待たせちゃうわけ?」
「うん、でもさすがに1年は長いかな?って最近自分でも思うんだよね。でも年明けすぐは、ちょっとねー。覚悟が出来ないよ~。」
「そっかそっか。タイミング分かんないよね。私達、結婚っていうものを経験したことが無いんだもん。当たり前よね。まぁ、カレシもそれは同じだろうけど。れいなが結婚したいって思ったときに、言ったらいんじゃないの?ねぇ、今から家に行ってもいい?なんかもっと深い話をしたいなぁ。ふふふ。」
部屋に着くと、珍しくケンさんが何も言わずに来ていた。
帽子とボディーバッグをソファーに投げっぱなしのまま、ダイニングテーブルでハイボールを飲んでいた。
「あー、すみません。はじめまして。ケンジです。今日は連絡せずに合鍵で入ってしまったんで。そんなときに限って。ねぇ。俺帰ろうか?」
「あ、こちら真由ちゃん。」
「はじめまして。真由です!れいながいつもお世話になってまーす。いいです、いいです!今夜は私も仲間に入れてください!」
2時間ほど3人で喋って、真由ちゃんは楽しんでくれて帰って行った。
同じ町内会で、うちから徒歩1分と言う超ご近所の実家に住んでいる。
高校時代からの友人だ。
「いい子だね~。なんか明るかったなぁ(笑)」
「でしょ?もう半年、カレシいないんだよ。誰かか合う人・・・いないかなぁ?」
「明るいって言えば、あいつしか思い浮かばないなぁ。」
「加門くん!」
「加門さん!」
橋口家で、加門さんと真由ちゃんを引き合わせてみる作戦は失敗に終わった。
真由ちゃんは商店街の個人経営の商社で20年間事務職をしている。
「加門さんは見た目がタイプじゃない。」
そうだ。
加門さんは真由ちゃんの事を「いい子だな」と好印象を持ってくれた。
けれど、真由ちゃんのほうから会ったその日のうちに
「付き合うとかそう目線は無いです。」
とラインをしたそうだ。
バンドマンが好みなので音楽を仕事にしている加門さんが合うかと思った。
それよりも二人の会話は明るくて楽しそうに見えた。
だからうまくいくと思ったんだけど。
真由ちゃんはギタリストとかベーシストとか、そういう系統じゃないとときめかないんだそうだ。
私とケンさんの作戦はあっけなく終了した。
人を繋げようとしてる場合じゃないのだ。
自分はどうしよう・・・。
あれから、ケンさんからダイヤ入りのネックレスを買ってもらった。
会社で季節ごとに出かけるアパレルの展示会や、高校時代の友人と会う時などに着けて行った。
仕事に着けて行ったら、あゆむんから
「ダーリン、まめっすねぇ。しかも高そう。大人の男の余裕感じますね。俺、そんないいもの買ってあげれないっすよ。」
「ごめん、給料安いよねぇ。」
「いやいや!そう言う意味じゃないです。俺なんか、まだまだ自己投資したい年代だなーって思って。」
「あゆむん、来年、卒業したらうちの本社で正社員にならない?」
「えー。そうなんすか。セレクトショップの〇とか、スポーツブランドの〇に採用もらってるんすよね。
でも、ぶっちゃけれいなさんとは、離れたくないなぁ。考えさせてください!」
「本社行くと、私とは離れちゃうよ?でもスーツのセミオーダーを作れるから。ショップ店員みたいに売り上げノルマだけの仕事じゃないから。専門学校で勉強した事を活かしてほしいって思ってるんだ。」
「俺、本当はデザイナー志望なんすよ。でも全然そっちの採用は貰えなくて。落ち込んでたんです、才能ないんだなぁって。セミオーダー、やってみたいです。」
あゆむんは洋服の事になると本当に真面目な子だ。
だからこそこの人材は手放したくない。
ちなみにあゆむんは同じ専門学校の同じコースの女の子と、最近付き合い始めた。
[9月]
9月になってもまだまだ暑い。
ケンさんはほぼ毎日、私の部屋に帰ってくるようになった。
半同棲、から、ほぼ同棲、に進化した。
相変わらず、ケンさんは夕飯は粗食。
私は17時に仕事が終わったら豆腐を買いに行くのが習慣になった。
自分は相変わらずお弁当を食べて、ケンさんの帰宅、だいたい21時頃まではゆっくり過ごすことが多い。
ケンさんは私と付き合うまでは、夜中や明け方に仕事をする事が多かったらしい。
私に合わせてくれるようになったみたいだ。
ケンさんが帰宅したら晩酌するのを見ながら、1日の出来事をお互いに報告する。
そのあと一緒にお風呂に入って、しばらくゆっくりしてから23時頃に寝る。
だいたいルーティンが決まってきた。
休みが一緒になるのはだいたい週1日。
ケンさんはフリーランスなので私の店休日の日曜日と月曜日に休みを合わせてくれている。
定期的に一緒に橋口家にもお邪魔している。
そこには真由ちゃんも参加するようになり、賑やかになった。
[橋口家]
「もうすっかり新婚さんみたいだなぁ。」
加門さんが悪気無しに言う。
「それ、言っちゃダメなんだってば。」
しーちゃんが入る。
「え、そうなの?なんで・・・」
「男性には分かんない事もあるのよ。」
「ふ~ん、そんなもんかい。」
今夜はケンさんは仕事が入っているため、欠席。
真由ちゃんが
「このまま同棲をずっと続けるのもマンネリになんない?大丈夫なの?」
と心配する。
今日は餃子パーティーをしている。
「確かにね、生活的にはもうマンネリなのかも・・・。でも好きな感情が薄れたわけじゃないのよ。」
「付き合うのと結婚って全然違ってくるからね。私は20歳で、なんにも分からず結婚しちゃったけど(笑)」
しーちゃんの言葉にジンさんが思わず
「それって後悔してるって事?なんだか分かんないな。オンナって生き物は。ケンさんはれいなちゃんを手放したくないから早く結婚したいんだろ?ケンさんにとって、自分は価値がある存在だって思えない?」
「うーん。価値、ねぇ。いつも出掛けるのに連れて行ってくれたり、色々買ってくれたりするんだけど。
私は何かしてあげられてるかと言ったら、これと言って思い浮かばないんだよねぇ。ご飯も作ってないし。」
「それよ。料理よ。ちょっとやってみたら?食べてくれるかどうかは別として。いざとなったら基本的なものは作れたほうが、いいわよ。でも、それは自分のためにもなると思うから。」
しーちゃんの言葉に真由ちゃんもうなずく。
「れいな、本当に料理が嫌いだよね。静香さんに教えてもらって練習してみたら?」
「そうなのかなぁ?何のためになるの。」
「理屈じゃないよ。やってみな!」
最後は全員に押されて、早速明日からしーちゃんに和食を習うことになった。
[次の日]
「じゃ、今日はしーちゃんに、肉じゃが習ってくるね。ケンさんが帰ってくる頃に合わせるから。
21時くらいになると思う。」
「おぉ・・・。うん、分かった。頑張ってな。包丁、気を付けて。」
(何で急に料理を始める気になったんだ。張り切り過ぎて嫌になって、やっぱり婚約破棄しますとか言わねぇだろうな・・・。)
「いってらっしゃい」
ケンさんに見送られる。
今日は私のほうが早く家を出た。
(一応、ジン君にラインしとくか。)
「しばらく、れいなが料理を習うのでお世話になるね。大丈夫そう?」
ピコン
「うちの奥さんが言うには、結婚へのモチベを上げさせるためらしいから。途中で嫌になったらストップかけるから、心配するな。今夜、旨い肉じゃが持って帰ってもらうから、食えよ?」
「そうか。ありがとう。楽しみに待っとくよ。」
しーちゃんにだしの取り方の基礎から習った。
今までは粉末や液体タイプを使っていたが、煮干しや鰹節でだしを取るととても風味が良くて優しい味付けに仕上がった。
「6人分は作ったわね(笑)この大きいタッパーに入れて持って帰りな。待ってるんじゃないの?旦那さん。ふふふ。」
しーちゃんも熱血指導を終えて、満足そう。
「来週はかき揚げと天ぷらやってみましょ。」
美味しい白ワインもお土産で持たせてもらい帰宅。
ケンさんはもう帰って来ていて、ソファーに寝そべってスマホのゲームをしていた。
「あー、お帰り!どうだった?」
「疲れたけど楽しかったよ。一人で料理するより楽しかったし、しーちゃんに基礎から教えてもらってきた。はい、ワインももらってきたよ。」
「いただきます。」
ケンさんは夜は炭水化物を摂らないので、肉じゃがとワインで夕飯を堪能した。
「うん!旨いよ。凄いじゃん。」
「良かった~。来週はかき揚げと山菜の天ぷらを作るらしいの。昼食にうどんをして乗っけたらいいんじゃ無いかって。」
「いいな!休みの日に作ってほしい。楽しみにしてるよ~。」
ワインを少し飲んだら酔っぱらった。
慣れない事をしたので疲れたようだ。
以前、付き合いたての頃に出していた夕飯は、簡単な肉料理ばかり出していた。
おまけにケンさんが普段食べない白ご飯を、無理やり出していたので胃もたれを起こしてしまった。
ワインのせいでソファーで横になっていたら、朝まで寝てしまっていた。
布団が掛けられていて、枕も頭の下に丁寧に置かれていた。
「あ、お風呂入って店に出なくちゃ・・・」
「れいな、おはよー。トーストとサラダで良かったら用意してあるよ。目玉焼きもしてみたんだ、食べよ。」
コーヒーも淹れてくれた。
「ありがとう・・・至れり尽くせりだね。」
一緒に朝風呂に入って、体と髪を洗ってくれた。
お風呂から上がったら、バスタオルで体も拭いてくれた。
洗面所で濃厚なキスをする。
後ろから抱きつかれた。
「ここでする?」
ケンさんが避妊具を持って戻ってきた途端、指が下半身をなぞってきた。
全身が熱くなる。
立っていられず、そのままどうにかしてソファーまで来た。
朝からなのは久しぶりで、二人とも興奮した。
「遅刻していいから、もう1回しようよー?」
「あ、今日は俺がもう仕事行かないと。続きはまた今夜ね!」
ケンジは先日ジン君から言われていた。
「押すばっかりじゃダメだぞ。たまにはこっちも我慢してじらさないとな。オンナって面倒な生き物なんだ。そこは忘れちゃいけないぞ。」
本屋で1時間ほど時間潰しをしてから、のんびりスタジオに向かいながらふわふわと考え事をする。
(最近、れいなって本当に良いオンナになってきたよなぁ。前よりも色気が出てる気がする。体つきも
俺の好みになってきたしなぁ。あぁ、今が1番幸せなのかも知れないな。もう少しこの楽しい時間を堪能するのも悪くないか。しっかし、胸が良い感じにデカくなったな・・・ふふふ)
[れいなの店]
今日はあゆむんは17時出勤。
最近は専門学校での勉強に集中しているらしい。
彼女も出来たので忙しそうだ。
(なんか、体がダルいな。顔もむくんでるかも。すっごい眠い・・・休みまであと3日かぁ。次の休みはしーちゃんに料理を習いに行く予定だったけど、出掛けずに家にいよう。)
休みになっても倦怠感と眠気はおさまらなかった。
しーちゃんに電話する。
「そう言うわけで、今週はキャンセルさせてください。」
「どうしたの?疲れた?料理は無理しなくていいから、休みな。あ!ねぇ!もしかして。妊娠とかしてないよね?その症状、妊娠初期と同じだから。ちゃんと生理来てる?」
「そう言えば、ここ半年、ケンさんと付き合い始めてから予定日から遅れる事がが多いんだよね。今月は予定日はまだ。でもちゃんと避妊はしてるはず・・・あぁ・・・分かんない。たまにちょっと心配になる時があるんだよね。」
「どんだけ激しいのよ、あなた達は・・・。いいから暫くはエッチも禁止よ。大人しく寝てなー。生理来なかったらちゃんと検査薬するんだよ!」
まさか・・・妊娠!?
急に怖くなってきた・・・どうしよう。
ケンさんに話をしてみないとな。
[その日の夜]
「え・・・。出来たかもって事・・・?」
暫くは恋人としての時間を堪能しようと心が決まったばかりなのに。
妊娠したかも知れない?
「もし出来てたら。産むしか・・・ないよな!そしたらすぐに結婚しよう!」
状況がコロコロ変わる。
正直気持ちが追い付かない。
だけど、この場合、これしか答えはないじゃないか!!!
それから2日間は、お互いにおとなしくしていた。
(こう言う時に男ってのはうろたえるだけの生き物だな。我ながら、ほんと無能だ・・・)
ケンジはどうしようもなく、モヤモヤするだけだった。
3日間、熟睡が出来た私は体力が戻った感覚になった。
(下腹部が痛い・・・これは・・・)
「ケンさん!来た!生理が来たよぅ!」
「えっっ!そうかぁ・・・!俺、昨日本屋で名づけの本を見て来たばっかりなんだ(笑)そっか・・・うん。」
(勝手に見に行っただけだ。振り回されてるわけじゃないぞ。うん・・・)
「橋口夫妻にも心配かけただろう?連絡しときなよ?」
「うん。」
(れいなは妊娠していなかった事が嬉しそうだ。二人で決めてた事だから。いいんだよ、これで。)
この騒動以来、二人の関係がだいぶん落ち着いてきた。
避妊はきっちりやるようになり、行為をする回数が少し減ってきた。
付き合い始めて半年になる。
今は、夕方に川沿いを散歩をしたり、相変わらず商店街の美味しいお店に行ったり、町のほうにも出たり。
休日には都内を離れて、ドライブがてら他県に出掛けることが増えて来た。
今は道の駅巡りにはまっている。
ちょっと高級な温泉旅館にも泊りに行った。
この日は二人とも夜の営みをゆっくり楽しんだ。
[橋口家]
「はい。温泉のお土産~。」
しーちゃんに渡す。
「ありがとう!あー、これ美味しいよね。大好き!今みんなで食べようよ。」
「婚前旅行って感じだねぇ。いいなぁ、相変わらず仲良くて。」
加門さんが半分うらやましがって半分調子に乗って言う。
「新婚旅行、行くとしたらどこがいい?」
真由ちゃんに聞かれる。
「うーん。ハワイかヨーロッパがいいかなぁ?私海外に行ったことが無いんだよね。ねぇ、ケンさんは?」
「俺はどこでもいいかな。NYは昔仕事で行ったことがあるけど楽しかったよ。ハワイもヨーロッパも行った事ないなぁ・・・ハワイでバカンスのほうがのんびり出来ていいかもなぁ。ヨーロッパは普通に芸術を楽しむ旅行で行ってもいいしなぁ。」
「よくもまぁ、妄想でそこまで楽しめるな~。」
「幸せだよなぁ。いいなぁ。うらやましいぜ。」
ジンさんと加門さんが、口々に面白がって言う。
