あなたの香りは溺愛の香り



「あれ? 荻原さんって煙草吸うんですか?」

 事後の気だるい体をのそのそ起こして――矢部遥は驚いたような声をあげた。
 乱雑に投げ捨てられ紺色のスーツ。皺になっちゃうからハンガーにかけたほうがいいかな? と視線を落として、赤い煙草の箱が飛び出ていることに気がついたのだ。

「……あ、バレちゃった?」

 ベッドから出かけた遥を制して――入れ替わるように荻原雅が起き上がり、煙草を拾った。

「……マールボロ?」

 荻原の手の中にある、赤と白い煙草の箱。遥は銘柄を視線でなぞって復唱する。

「そ。マルボロ、なんて略したりするけど」
「でもあの、今まで、私といるときに煙草を吸ったこととありましたっけ……?」
「ん? まぁそりゃあね。これは仕事用っていうか……ほら、あるでしょ。喫煙所コミュニケーションとか。あとは取引先なんかと話のきっかけのために吸ってるだけ」

 煙草を吸う素振りすら見せず、荻原はどこか機嫌よく言う。

 ――意外。荻原さんって煙草吸うんだなぁ。今、若い人で煙草吸う人ってあんまりいないし……。

 荻原さんはどんなふうに煙草を吸うんだろう。興味こそあったが、その日、遥はそれを口にすることはできなかった。