鮫ちゃん、君の名前を聞かせて


「茜ちゃんって、女の子なのに声低くてなんか怖ーい」


私はそれから、声を出さなくなった。

自分の声が嫌いになった。

家では、跡取りの弟ばかり贔屓され、居場所が無かった。

お金ならあるからか、高校に入ってからは好きに一人暮らししていいと言われ、通信制だったけど、小綺麗なアパートに住んだ。

誰とも喋らなくていい、心地良い環境だった。


高3になって18歳を迎えて少しした頃だった。

びしょ濡れのアイドルが家にやってきた。

テレビが家にないから、芸能人には疎かったけれど、顔立ちやオーラから察するに、嘘ではなさそうだった。

シャワーを浴びさせて、ベッドで1人寝かせてあげようと思っていたら、無理矢理一緒に寝させられた。

そしてその彼、恭平は、一緒に住みたいと言い出した。

意図は分からなかったが、なんとなくOKしてしまった。

そしたら3ヶ月くらいで特定された。

怖かった。

だけどその頃には私は、恭平のことが好きだった。

アイドルとしてではなく、人として。

初めて彼の前で声を出した。

どこにも行かないで、と。

久しぶりに出した声は、掠れてしまっていた。


そして「茜」と呼ばれた。