しばらく海を眺めた後、一葉は悠醐とともに自宅がある世田谷区に戻った。
「ただいま……帰りました」
少し照れながら一葉がつぶやくと、隣にいた悠醐がくすりと小さく笑う。
「普通でいい。一葉。俺がずっと冷たくしていたから、逆にやりづらいとは思うが」
口ごもる一葉の顔を覗き込んだ悠醐の眼差しが蕩けるように甘い。まるで、何かに浮かされているように。
「……うん。前みたいな、わたしたちに……」
「ああ、もう俺に何も気を遣うな。自然にしてくれ」
「んっ……」
一瞬で端正な顔が近づき、驚く間もなく唇を塞がれる。海でも、そしてここまで帰ってくるまで、悠醐は何度も何度も一葉にキスした。何かリミッターが外れたように、求められているような気がする。
さらにもう完全にふたりきりだからだろうか。
壁に追い詰めた一葉を囲うようにして、深く求めた。
「ゆ、ごさ……と、とりあえず、お部屋。入りましょう」
「ああ、すまない」
腰が立っていない一葉を見て、ようやく悠醐は我に返った。彼女の腰を抱き寄せ、半分抱きかかえるようにして部屋に入る。
それからふたりはデリバリーで食事を頼み、のんびりとした時間を過ごした。
今まで、悠醐に一緒に食事をとるのを避けられていたので、デリバリーでも同じ食卓を囲めるのがうれしかった。
明日もお互いに仕事があるので、風呂に入り寝る支度を整えた。
「悠醐さん、今日は本当にありがとうございました。おやすみなさい」
ソファで寛いでいた悠醐が顔を上げる。彼は、自分が支度が終わるのを待ってくれたようだ。
(この顔見られるの恥ずかしいな。早く、布団に入ろう)
スキンケアが終わった一葉の顔はたっぷり液体がコーティングされていて、つやつやに光っている。
しかもおまけにすっぴんだ。可愛くない顔で光沢がある顔を好きな人に晒すなんて、なんの罰ゲームだろう。
「待て」
そそくさと部屋を出ようとする一葉を、悠醐の一言が遮る。
振り返ると、彼はまっすぐ一葉を見据え、こちらに向かって手招きした。
「隣、来て」

