孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


その言い方が、すべてを物語っていた。
清香が一葉に何かおかしなことを吹き込んだのかもしれない。だが確証はとれない。
悠醐は一瞬視線を落としたが、次に顔を上げたとき、その目は完全に温度を失っていた。

「前から思ってたんだ。あなた、素質あるな」

静かな声音で告げると、清香の表情がわずかに強張った。

「人の気持ちを考えずに、平然と踏みにじれる。その図太さ」

一切の感情を排した声だった。

「見ていて、感心するよ」

言い終えると同時に、肩を震わせる清香の横を通り過ぎる。
すると彼女は、ふんっと悠醐を嘲るように笑った。

「……ずいぶん余裕ぶってるじゃない。あそこまで叩き落とされたくせに」

わざとらしく息を吐き、視線を鋭く細める。

「まあいいわ。せいぜい気をつけなさいよ。その“奥様”、自分が何をしてるのか分かってないみたいだから」

唇の端を吊り上げる。

「下手したらまた、大事なもの全部壊されるわよ。あの子のせいでね」
「待て」

悠醐が振り返ると、清香は無表情でこちらを見ていた。

「わたしを選ばなかった罰よ」

それ以上、言葉を重ねる必要はなかった。
悠醐は真っ先に会場を飛び出した。彼女がどこに向かったのか、今は見当がつかない。
家なのか、それともふたりが出会った場所なのか。

「一葉……」

彼女を失いたくない。これほどまでに強く思ったのは、いつぶりだろう

(ああ、あのとき――)

波にもまれながら、手を伸ばした。見えない彼女を求めて、もがいていた。
そのときと、今が重なった。




・・・