孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


おかしいと思っていた。悠醐内定が決まっていた大学病院を辞め、海外に長らく拠点を移したのが不思議だった。何か理由があるとは思っていたが、自分の父親が追いやっていたとは夢にも思わない。
それに、悠醐が自分の命を絶とうとした原因が自分にあるなんて。

涙が止めどなく溢れる。

一葉の嗚咽に気づいた清香が、大きく目を見開いた。

「あ、あんた……」

一葉は涙を流しながら清香を見上げる。

「今の話、本当なんですか。うちの父が、悠醐さんを……」

清香は一瞬だけ言葉を失ったように見えたが、すぐにふっと口元を歪めた。

「……やっぱり何も知らなかったのね。お気楽なお嬢様だこと」

わざとらしく肩をすくめると、嘲るような視線を向ける。

「そうよ。あんたの父親が全部仕組んだの。あの人、邪魔だったから潰されたのよ。身の程知らずに神城に楯突こうとした、哀れな医者をね」

くすりと笑い、さらに追い打ちをかける。

「それなのにあんた、のこのこ妻の顔して隣に立ってるなんて――滑稽にもほどがあるわ!」

何も考えられなかった。胸が苦しくて、悠醐に申し訳なくて。
すべて納得がいく。
悠醐が深く自分や父を憎んでいた理由も。自分を仮初の妻にしたがる理由も。

だが――理解できないのは、彼がそんな自分に、心から優しくしてくれる瞬間があるということだ。どうして。あれは、演技なのだろうか。

だがもうどうでもいい。悠醐を愛している分、一葉はこの状況に耐えられなかった。

(わたしは、悠醐さんと一緒にいる資格なんてない。お父さんと一緒に、彼の前から消えるの。今度こそ本当にさようなら……悠醐さん)