孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


声の主が神城だと気づいた途端、一葉の体が嘘みたいにその場で固まった。

「わたしが一番聞きたいわよ。ある日突然結婚するって、悠醐さんが言い出したんだから……でもうちのパパも、わたしも、この結婚には絶対に裏があると思っているんだけど」

その声は紛れもなく、清香だった。

「だよなぁ。いくら五十嵐と篠宮の娘が昔付き合っていたって、あんなことをするような父親を許せるわけがないだろう」

(父親って……わたしのお父さんのことだよね。お父さんと悠醐さん。何かあったの?)

悠醐との仲がこじれた原因は、自分が一方的に悠醐を蔑み、別れを告げたことによるものなはずだ。父親に悠醐との交際を反対されたこと自体は、彼はそれとなくわかっているとは思うが、他に理由があるのか。

(あれ、みんな……今まで変なこと、言ってたよね)

父親を恨んでいるとか。悠醐に、面白いことを考えるとか……。

「篠宮誠に日本の医療業界から徹底的に追い出されて、自殺未遂までに追い込んだのよ? あんな男、生まれ変わっても許せっこないでしょう。だけど、悠醐さんも悠醐さんよ。あのときどんな理由であれ、助けたのはうちのパパなのに!」

悔しそうな声を上げて、清香は近くに壁を思い切り叩く。
すると五十嵐は清香をなだめるように、「まぁまぁ」と笑いかける。

「誠さんも必死だったからねぇ、会社の存続のために僕とあの子を結婚させるのにさ。まあでも、あのふたりの結婚が平和に終わるわけがない。あの冷徹で有名な五十嵐のことだから――篠宮一葉を利用するだけ利用して、捨てるか……一生飼い殺しにして苦しめるか。二択だろう」

「……っ!」

一葉は一瞬、息が吸えなくなった。
頭が混乱している。
自分が知らないところで、とんでもないことが起きていたのだ。

(お父さん。悠醐さんと別れたら、悠醐さんの未来を保証してくれるって言ってたよね……?)

だが清香や五十嵐が言っている内容が正しいとしたら、父は一葉に大ウソをついていたということになる。

(だから、海外に……)