悠醐はその言葉通り、一葉を常にそばに置いていた。
他の参加者へ挨拶を重ねながら、上品な所作で酒を交わす。
だが常に、一葉のエスコートは欠かさない。これだけいろんなことに目を配っているにも関わらず、焦りが一ミリも感じない。悠醐のどこまでも余裕の佇まいは、一葉にとって衝撃的だった。
(今まで見た、どんな悠醐さんとも違う)
社交界の場の顔は、紳士的で艶やかだ。もっと、惚れてしまう。
しばらく穏やかな時間が過ぎていたが、突然その時間が訪れた。
「初めまして。本日はお越しいただきありがとうございます」
「初めまして。こちらこそ、お招きいただき光栄です」
悠醐に友好的な笑みを浮かべ、握手を求めてきた男――彼こそが、神城グループ御曹司、神城透真だった。
三十代後半と噂に聞く男は、第一印象、派手だった。茶髪にネイビーの細身のシルエットが都会的な印象を際立たせたスーツをまとっている。襟元にはシルクのナローネクタイが締められ、さりげない光沢が輝く。
愛嬌のある端正な顔立ちの奥に、相手を値踏みするような冷ややかな光が潜み、その笑みはどこか温度を欠いている。
名刺交換を交わしてすぐ、神城は驚いたように目を瞬かせた。
「あなたが噂の、五十嵐先生ですね。秘境の地での活躍、業界ではとても有名ですよ」
「ええ、ありがとうございます。今は京極医科大学で外科医をしておりまして」
「京極で外科……」
そう独り言ちると、一瞬何かを思い出すような素振りをする。
きっと彼は、あのときに潰した悠醐だと思い出そうとしているのだ。
重たい沈黙を打ち消したのは、悠醐の笑みだった。
「こちらは妻の一葉です。もともと篠宮医療機器メーカーの娘でして」
「はじめまして。一葉と申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
深く礼をする一葉に、神城は目をまるくする。
「あなた、篠宮のお嬢様ですか」
「ええ……今は倒産して、なんにもありませんが、そのおかげで悠醐さんと結婚できたので、よかったと思っています」
一葉は皮肉めいた言葉だと自覚していたが、本音が止まらなかった。
悠醐の目には、一葉が今神城へ成敗できたように映っているのかもしれないが、違う。
心から、感謝しているのだ。篠宮家を潰してくれて。でなければ。こうして悠醐と再会できなかった。
硬い表情で一葉を見ていた神城だったが、ふっと笑みを浮かべた。
「おふたりが、幸せそうで何よりです」
笑ってはいるが、目だけが冷たい。
「ありがとうございます。――では、また」

