孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む

一葉が緊張しながらそう伝えると、彼はふっと口角を上げた。

「ありがとう」

今日の服装と相まって。彼の笑みはいつになく輝いている。
黒のスーツは無駄なく身体に沿い、肩から腰にかけてのラインが際立っている。上質な生地はわずかな動きにも滑らかに応じ、仕立ての良さがひと目で伝わった。

タイはきっちりと締められ、シャツの襟元まで一切の乱れがない。
過剰な装飾はないのに、その佇まいだけで格の違いを感じさせる。 
ふたりが見つめ合っていると「五十嵐くん」と背後から、声がかかった。

「あ……」

現れたのは、京極茂雄――院長。その隣に、清香が立っていた。

「お久しぶりですね、悠醐さん。お元気でしたか?」

清香は以前取り乱したのが嘘のように、何事もなかったように悠醐に話しかけている。だがすぐ隣の一葉を一瞥し、はぁ、とわざとらしくため息をついた。

「あら、〝お飾りの妻〟もご一緒だったんですね」

(え……?)

耳を疑うような言葉に一葉が言葉を失っていると、隣にいた悠醐がすかさず一葉の盾になるように、清香との間に立った。

「聞き捨てならない。妻に今すぐ謝ってくれ」
「……は。意外と熱心ね」
「熱心も何も、妻を侮辱したら夫としては許せませんよ」

語気を強めた悠醐に、清香はたじろぐ。正直、一葉も驚きを隠せなかった。
ここまで悠醐が自分を守ろうとしてくれていることが。

本気で妻だと思ってしまうくらい、彼の姿は本気のように見えたから。
すると周りでこのやり取りを聞いていた参加者たちも口々に「今のはひどいな」「ありえない」などと声をあげてくれる。
清香と院長はバツが悪そうな表情を残して、そそくさとその場からいなくなった。

「大丈夫か。一葉」
「は、はい。悠醐さんが守ってくれたから……」
「今日はそばを離れるな。いつあいつが君を攻撃してくるかわからない」

こくり、と頷くと、悠醐の手がそっと腰を引き寄せた。

「それと、今日の君は美しすぎる。悪い虫(おとこ)が近寄らないように」

悠醐は艶のある低音でささやいてくる。その声も、言葉も甘く、一葉の頬をあっという間に熱くした。