孤高の心臓外科医は、憎しみの元恋人を熱情で囲い込む


だが悠醐は少しずつあのときの自分たちに引き戻されている感覚があった。
いや、違う。あの頃よりも、もっと深い関係になれるかもしれない。
困難を乗り越えた先にあるのは、揺るぎない信頼だ。
それを、ようやく実感し始めている。

(一葉に、ちゃんと妻として隣にいてほしい)

その思いは、もはやごまかしきれないところまで来ていた。
受け入れられる保証などどこにもない。だが、それでも伝えずにはいられない。

そのとき、ポケットのスマートフォンが小さく震えた。
確認すると、心科の部長からのメッセージだった。表示された文字に、一瞬だけ視線が止まる。

【神城メディカルグループ主催、医局幹部合同懇親会】

悠醐は二度見した。

(神城メディカルグループって)

ようやく内容を飲み込んだとき、大きく息を吐いた。
国内でも指折りの規模を誇る医療連合体であり、各科の主要医師が一堂に会する半ば公式の場だ。

そして同時に悠醐にとっては、決して無関係ではいられない相手でもある。
一時期の経営悪化を経て体制を立て直したその裏で、主導権を握ったのは、かつて一葉の縁談相手であった御曹司。さらに言えば、篠宮誠と結託し、悠醐を医療業界から排除しようと動いた中心人物でもあった。

思い出すだけで、頭が痛い。
本来であれば、一生関わりたくない相手だ。顔など見ずに済むのなら、それに越したことはないのだが……。

(だが、そんなのは逃げだ)

むしろ、ここで退くわけにはいかないだろう。
かつては京極の手を借りながらも、今は違う。自らの技術と実績で、名医としての地位を築き上げてきたのだ。
それは一葉も同じだ。

神城に切り捨てられ、実家は破綻寸前にまで追い込まれながらも、ここまで這い上がってきた。
ふたりはもう、過去に押し潰される側ではないのだから……。

(断られるかもしれないが、一葉をあいつに見せてやりたい)