ある日、悠醐が構内で別の女性と歩いているのを見かけ、一葉は激しく動揺した。胸が痛くなって。涙が込み上げる。そこで、自分が彼の隣にいた女性に嫉妬しているのだと気づいた。
(こんな醜い心、知りたくなかったな)
そして偶然、一葉の誕生日にふたりで出かけた海辺で、その関係は静かに変わった。
潮の匂いと、夕暮れのやわらかな光が心地よかった。
言葉にしなくても伝わる空気の中で、彼は一葉をまっすぐ見つめる。
「一葉、好きだ。俺と付き合ってほしい」
彼の澄んだ瞳に、動揺する自分の顔を見つけ、一葉はふと視線を逸らした。
人生で、初めての告白だ。
「もちろん。私も、悠醐さんのことが好きです」
恥ずかしくて視線を合わせられない一葉の手に、大きな手が覆いかぶさる。
そして彼女の指を握った。その力強さに、どくんっと心臓が大きく跳ね上がる。
「ありがとう。本当に、今まで生きてきた中で一番うれしい」
「そんな! おおげさじゃないですか」
一葉が笑いながら振り返った刹那、真剣な表情の彼の視線がかち合う。
「いや、本気で言っている。今まで、大切にしたいと思えた人は君しかいない」
「悠醐、さん……」
動揺する一葉から手を離した悠醐は、ポケットから小さな長方形のボックスを取り出し、中を開く。
その中に収められていたのは、ひとつぶダイヤが通されたプラチナのネックレスだった。
「これ、大したものじゃないけど、一葉に似合うと思って。誕生日プレゼントとして、受け取ってくれないか」
「……うそ、こんな高価なものを? ありがとうございます」
沈みかける夕日の光に反射して、きらりとダイヤが光る。
そのまばゆい光に目を凝らした刹那、悠醐が身を乗り出し、彼女の首にそっとネックレスをかける。
「やっぱり、似合ってる。時々、つけてくれたらうれしい」
「はい。もちろん……毎日身に付けますよ?」
優しい笑みを浮かべた彼が、あまりに甘くて、じんわりと頬が熱くなる。
見たことがない、彼の表情。こんなふうに、男性に何かをプレゼントされたことなどなく、どう反応するのが正しいのかわからない。
少しだけ談笑をして、立ち上がろうとした彼の腕を、一葉はとっさに掴んだ。
驚く彼を、一葉はじっと見つめた。
「もうひとつ、誕生日プレゼントをくれませんか」
「……どうした?」


